1人が本棚に入れています
本棚に追加
いい雰囲気のレストランなのに、二人の間の空気は重苦しかった。
ナナミと旦那のトモヤは、料理を待つ間、ほとんど会話らしい会話もなく、料理が来てからもすでに10分ほど、黙々とパスタを口に運んだり、ワインを飲んだりしている。この半年は、自宅で顔を合わせてもこんな調子だ。
今日は結婚記念日。夫婦関係がうまくいっていれば、特別な日。
老婆にもらった惚れ薬は、足元のカゴの中の鞄に忍ばせてある。
「こんなふうに、二人で外で食べるの、久しぶりだよね」
ナナミはフォークを持った手を止めて、やっと話を切り出す。トモヤを誘ったのは、わざわざ時間とお金をかけて無言の栄養補給をするためではない。二人の将来について、話さなければならないのだ。
「初めてこのお店に来たときのこと、覚えてる?」
「確か、つき合い始めて、一年目か、二年目か」
トモヤが抑揚のない声で答えた。
ナナミの記憶では、つき合い始めて一年目のことだ。結婚から五年が経った今でも、トモヤの中に自分の記憶がちゃんと残っていることが嬉しかった。
「そうそう、あの頃は、よく二人で出かけたよね」
「そう、だったな」
最初のコメントを投稿しよう!