1人が本棚に入れています
本棚に追加
トモヤも昔を思い出しているのか、赤ワインのグラスに添えた手を止めて遠い目をした。
「あの頃は、よかった。ナナミといれば、何をするのも楽しかった」
「私も。今だって、もちろん、トモヤのことが嫌いになったわけじゃない。ただ、なんだか……」
そこでナナミは口ごもった。
続きをトモヤが答えた。
「熱が……冷めた?」
「言い方は悪いけど、そうなのかもしれない」
ナナミがそう認めても、トモヤは怒りも呆れもしなかった。熱が冷めたのはお互い様だ。
トモヤは静かに慎重に言葉を選ぶように、話し始める。
「正直に言うよ。僕もナナミのことは嫌いじゃない。尊敬もしている。だけど、このまま一生、夫婦としてやっていくことが正しいのかどうか、できるのかどうか、僕にはわからない」
「たぶん、私も、そういう気持ち。同じだと思う」
想像していた最悪よりも、かなりマシだとナナミには思えた。トモヤの言葉が本音であれば、まだ二人は終わったわけではない。自信や覚悟が足りないだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!