半分ずつの愛 本文

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 トモヤは何も疑わない様子で席を立ち、店の出入口のほうへ歩いていく。  実はナナミは、さっきトイレに立ったとき、共通の友人に、トモヤに電話をかけてくれるよう頼んでおいたのだ。  だが特に用事もないとわかれば、すぐに電話を切って戻ってくるかもしれない。急がなければ。  トモヤが店の外に出たのを見届けると、ナナミは震えそうになる手で小瓶のふたを回して開けた。隣のテーブルは空いているし、店員はむこうでオーダーをとっているから、今なら見られずにすむ。腰を浮かせてトモヤのグラスに手を伸ばす。一滴、二滴、ぽたり、ぽたりと瓶のすぼまった口から惚れ薬が垂れ、ワインの真紅の水面に波紋を作った。半分以上入れてしまわないように最新の注意を払い、きっちり半分を垂らし終わると、自分のワイングラスに残りを全部入れる。一滴ずつぽつぽつと垂れるので、もどかしい。今にもトモヤが電話を終えて店に入ってくるのではないか。もしもこんな怪しい行動を目撃されたら、関係を修復するどころではなくなる。  瓶がからになった。
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