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ナナミは急いでふたを閉めて、瓶を足元の鞄のポケットに押し込む。そしてちょうどナナミが顔を上げたとき、入り口のドアが開いて、トモヤが戻ってきた。
「シノだった。なんか、ただの間違いだって。もう何年も、連絡なんて取ってないのに」
「そうなんだ」
不審に思われていないだろうか。ナナミは気が気でなく、まだ心臓がバクバクしていた。自分が普通の顔を装えているのか、わからない。
トモヤがワイングラスに手を伸ばした。何かを気にする様子もなく、口をつけ、残りを一気に流し込んだ。そしてからになったグラスを元の位置に置く。パスタを口に運ぶ。
ナナミはその様子を見て、どうやら気づかれなかったらしい、と安堵した。自分のワイングラスを持ち、残りを一気に飲んだ。味も風味も変わっていなかった。
これで二人とも、あの薬をちょうど半分の量ずつ飲んだことになる。
あとは効果が出てくれればいい。効果はすぐに出るのだろうか。
「ああ、その、なんというか」
トモヤが歯切れ悪く何かを言おうとしている。
「離婚について、なんだけど」
やっぱり来た、とナナミは思い、身構えた。
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