鬼子

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 とある一人の男が、三日月を指名した。まだ若く腰に刀を差している。刀で脅されたこともある三日月は、緊張しながら相手をした。お酌する手が滑って相手の着物を濡らしてしまったときに、しまったと思った。殴られる、そう思って恐る恐る男を見ると、男はにこにこ笑って「なに、着物の一つくらい、気にするな」と三日月の頭を撫でた。…それがなんだか、大和に似てるような気がした。 「あい。」  そういって照れ笑いをすると「お前異人じゃないな。この国のもののようだが、はて、この髪は…」  長く伸ばした三日月の髪を手に取る。三日月は「わしの出生は不明でありんす。」とにっこり笑った。そうして肩を抱く男に、これが大和だったら、でももし本当にそうなら状況がおかしいな、と思って三日月はクスクス笑った。男はくすぐったそうに目を細めた。 「俺の名前は士郎という。睦、士郎だ。」 「あい。」 「お前は?」  布団の中で足を擦り合わせながら話してるとなんだか恋人のようだった。 「三日月といいます。」 「そうではない。本名は?」  三日月はにっこり笑う。 「忘れました。」  士郎はふうむ、といいながら「生まれはどこだ?」 「この鐘楼館です」  男は肩を揺らして笑った。 「嘘をつけ。そんなわけあるか。」  出身地を言ったらなにか父か母の情報も分かるだろうか。 「伊豆の…方です」 「伊豆か。飯のうまいところじゃなぁ」  三日月は裸の胸を抱きながら、「知っておられるんですか」と聞いた。 「昔、父が戦に出たところと近い」  三日月の父はその頃、財をなしたのだ。とはいっても貧乏な屋敷だが、そこそこ裕福な暮らしをさせてもらってきた。父と母が懐かしい。 「士郎さま。」  三日月がそういうと士郎は笑って「なんだ。」と答えた。三日月は笑う。やっぱり大和に似てる。
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