鬼子

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 民子は生まれたときから金色の髪に赤い瞳、日焼けのできない肌だった。鬼子、として周り中から忌み嫌われ、それでも両親は手放さず、ここまで育ててくれた。上の兄などは「異人さんとして外に売ったらいいわ」と散々父に忠告しては、姉に叱られていたのだ。「異人さんとして売るより、この髪の毛を売った方がうちらの金になる。」姉はそういって、手元に民子を置きたがった。結局、父が「娘を売る馬鹿がどこにおる」と叱りつけ、兄を戦場に送り出したまま、兄は帰らぬ人となった。姉は遠くの方へ嫁に行き、よその家庭にはいった。下の妹は優しい民子を気狂いだといって受け付けようとしない。民子は父母亡きあとの自分の身を、死と覚悟していた。幼い頃から自分の死を見つめ続けてきた民子は、どこか達観したところがあった。それがまた見た目と合間って、近寄りがたさを覚えるのだ。  民子は実際とても気性の優しい子だった。奥方の娘とはいえ厄介者の自分がなにもしないわけにはいかないと、女中と洗濯をし掃除をした。自分の見た目で作った飯は嫌がられるだろうと、炊事にはたたなかった。そういう働き者の聞き訳のよさが、とある若者の目を惹いた。屋敷に出入りしている男だった。少し正直すぎるところが玉に瑕だが、熱い志を持ったよい青年だった。民子が鬼子と呼ばれながら、家で朗らかに働いてるのに好いてしまった。屋敷の主人にはまだいってない。 「やっちゃん、どうしたの」  民子の妹の雪子が大和の名を呼ぶと、大和は「いや、なに。聞きたいことがあって。」と少し困ったように言った。 「なぁになんでもいって。やっちゃんの頼みならわたしなんでもするよ。」  大和が飲む度にそばでお酌をしているのはこの屋敷の主人の娘である自分である、というのが雪子の自慢だった。父は身分もない若侍に浮かれる雪子に顔をしかめたが、母親は許していた。なにぶん雪子はまだ子供だ。 「民子さんに見合いの話などはあるのだろうか。」 その瞬間の雪子の顔をなんと表現したらいいのか。スッと表情が消えて嫌悪の顔をする。 「やっちゃんたら、姉上がいいの?いつもお酌をしてるのはこの私でしてよ?」  そういっていつものように腕にじゃれつくと、大和は咳払いをする。雪子は口を尖らせたまま「姉上に結婚の話なんかあるわけないじゃない。馬鹿なやっちゃん。」と離れていってしまった。大和は何度もそうか、とうなずきながら、また雪子の相手をするのだった。  巷に人さらいが横行している、夏だった。民子だけがなにも知らずに女たちと板ふみをしているのだった。
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