夏は過ぎ

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夏は過ぎ

 熱いアスファルトの上に蝉が仰向けに横たわっている。六本の脚はしっかりと胸の前で閉じられていた。  じりじりと陽の光に焼かれている蝉の死骸をほうきとちりとりで拾い上げ、ゴミ袋に入れる。  ほんとうなら、標本にして取っておきたいけれど。  そう思っても、私の部屋に虫の標本の置き場所などない。小学生の頃の夏休みになら、自由研究にでもなったのだろうけれど。  家の中に入って冷えた麦茶を飲む。体を冷やしながらのんびりしているうちに、日が暮れてきた。  立秋を過ぎて、陽が落ちるのも早くなってきている。夕焼けを見ながら、狭いキッチンで夕飯の用意をする。  陽が落ちた頃に夕飯を食べていると、コオロギの声が聞こえた。  もう夏の終わりだ。
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