青と忘却

静かな恋情

「キスしたい」
祭りの夜に放たれた衝撃。私は秘めていたい恋を太鼓の音に紛らわせた。言われてみれば思ったより簡単で、それは簡単に落ちてしまいそうだった。
「好きだよ、でもごめん」
花火のカウントダウンが始まった。それがいつもより胸につかえて私は上を向く。彼女と私の「好き」は同じもの。それを分かっていたから、私が大切に隠してきた「好き」の気持ちは「キス」という言葉に惑わされそうになった。

ドン――

花火が上がって、私はただ上を向いてこの夜に身を任せていた。彼女は思い詰めたように花火を見ようとしない。その姿に私は心臓を潰された。
「ごめん」
彼女は心にもない謝罪をしてから、私にキスをした。この騒がしい胸の音が彼女に聞こえないように私は彼女を拒んでしまい、私の視界は涙で滲んでしまった。
「ごめん」
私の涙が彼女の肩に落ちてしまった瞬間、彼女はまるで心臓を潰したようにそう言った。謝られるたびに、私はその言葉を望んでいたはずなのに、どこか謝られることを辛いと感じている私がいた。

　終わってしまった祭りの喧騒と、始まってしまった終わりの静寂――。走って逃げてしまった私の後ろ髪が、彼女の気配に引かれてしまう。忘れることが出来ない後悔に私は呪いをかけた。

　「もう誰も好きにならない」

「さよなら」
その呪いによって生まれた私の孤独は、誰にも気づかれず夜に溶けた。