代替可能な私

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「柚葉はどう? 市役所のお仕事」 「んー。ぼちぼちかな」 「ぼちぼちって? どんな事してるの? やりがいはある?」  グイと身を乗り出されては、気乗りしないが話すしかなさそうだと観念する。 「交通課に配属されて、今は窓口業務を担当してる」 「へぇ、窓口!」  目を輝かせる恵那に慌てて言う。 「別に誰でも出来る仕事だよ! ルールがあって、その通りに書類を受け付けるだけだし!」 「へえ」 「そんなに人来ないし、ほとんどの時間は雑用してるだけだよ! まだ難しい仕事は何も分からないから」 「そうなの? でもさ、窓口ってことは市民の人に何か聞かれたら、その場ですぐ答えるんでしょ? それだけでも十分すごいし、その上空いた時間で雑務もこなすなんて、誰でも出来ることじゃないと思うなぁ」 「できるよ。だって私に出来るんだもん」 「……そういう意味じゃないのにな」  ぼそりと呟いた恵那は、おそらく「誰にでも出来る仕事なんて無い」と言いたいのだろうが、分かった上で、私は否定する。  私の仕事は恵那のそれとは違う。誰でもはできなくても、それが私である必要は一つもない、代替可能なもの。  いや。仕事も、か。  溜息を吐いた私を、恵那が心配そうに見ている。
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