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続いて長為店長に代わりにやってきたのは、あのチャラいお兄ちゃん店員だ。
バイトの制服であろうオリーブグリーンのエプロンを翻し、颯爽と席に着く。
「心島さんですね。よろしくお願いします」
「そうっす。よろしくお願いしますっー」
やたら語尾が跳ねる予想通りの軽い喋り方で、彼は返事をした。
ワックスで形作られた髪は少し乱れ、頭頂部の生え際は2cmほど黒くなっている。
年は、見た目からおそらく20代前半。
「早速ですが、心島さんも松代さんと面識が?」
「そう。店長も言ってましたけど、ここの常連さんなんで。たまに喋ったことはありますねぇ」
前の2人の聴取と比べ、随分ヘラヘラと気の抜けた感じで、どうにも締まりのない空気が流れる。
「では、松代さんはどんなイメージでしたか」
「うーん。かわいーお姉さん?そんな感じ」
真面目に答える気は、甚だなさそうだ。
いや、これでも本人は真面目にやっているのだろう。
しっかし、彼の喋り方は鼻につく、私が苦手とする典型的なタイプだった。
舌を頬の裏に擦り付け顔をしかめていると、支眼は私の不機嫌な様子を察したのか、落ち着いてと目配せしてきた。
「では、今日の17時半から18時の間何をしていましたか」
「あー。17時30分から40分くらい?は店長に頼まれて、外回りの掃除とか水やりとかを一通り。その後はひたすら明日の仕込み」
心島さんはそうっすよね?と椅子の背に手をかけ振り返って、長為店長に同意を求めた。
数木刑事は店長が頷いたのを確認し、テンポよく次の質問を続ける。
「はい。では今日松代さんと会話はありましたか?」
「ないっすね。基本、厨房に籠ってたんで」
「そうですか。他に何か気になったことはありましたか」
「ないかな。その後ちょくちょくホールにも出たけど、変なとこはなかったすね」
彼も他の皆と同様、松代さんの異変には気づかなかったみたいだ。
ここまでくると、本当に異変などなかったのかもしれない。
数木刑事はありがとうございましたと、礼を言い、早々に事情聴取を終了した。
心島さんに聞いたことは、前2人に比べかなり少なかった。
まぁ、彼はいっても一店員。
被害者の友人、馴染みの店長という関係性と比較すると、こんなもんだろう。
私だってバイト先の客をそれほど気にとめたことはないし、その逆も然りだ。
それに加えて質問にもよどみなく、ある程度正確に返答していた印象だ。
彼から聞き出せる必要な情報は、きっと得られたにちがいない。
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