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「えー、被害者は松代鞠佐、25歳。化粧品メーカーに勤める会社員。住まいは____」
低くて張りのある声が店中に響く。
口調は淡々と一定のリズムをキープしているが、その発言の節々からどこか威厳が感じられた。
それもそのはず、今話している彼は若いとは言えど刑事。
名前は確か、数木と言った。
彼の鋭い目つきとその風格で、店全体に緊張感が漂い、私は思わずシャツの裾をつまんだ。
まず、なぜここに刑事さんがいるのか。
端的にいうと、倒れた彼女、松代さんの死因が毒死だったからだ。
彼女は倒れた後、救急車ですぐに搬送されたが、間に合わなかったらしい。
これはさっき数木刑事が話していたので、間違いない。
そもそも警察の人が来ているということは、これは殺人事件の可能性がある、ということだろう。
毒死なんて、普通有り得ないし。
それくらいは素人の私でも容易に分かった。
そして今、数木刑事が私たちを含め店にいる全員に状況を説明しているところだ。
「まだ使用された毒の種類は判別できていません。じきに結果がでるでしょう」
数木刑事はロボットのように、変わらないトーンで話を進めていく。
私たちは困惑したまま、ただ黙ってそれを聞いていた。
「まず、お聞きしたいことが何点か。ご協力よろしくお願いします」
彼は素早く礼をし手帳を構え、ひとりひとりをぐるっと見渡した。
再び、この場に張り詰めた空気が流れる。
誰かの不規則な息づかいが、よく聴こえた。
「この中で、以前から松代さんと面識のある方はいますか」
彼は依然、毅然とした態度でそう言った。
数秒間、人がいないのではと思うほど奇妙な静けさがおとずれる。
するとそろりそろり1人、2人、私と支眼以外の全員が手を挙げた。
それを見て私と支眼、そして松代さんと同席していた男性が驚いた。
カウンター席に座っていた女の人に加え、白髪のダンディーなおじさん店員、茶髪チャラ男の店員も松代さんの知り合いと言うのだ。
つまり、私と支眼以外は松代さんと何らかの繋がりがあった、もしくはあるということだ。
これは完全に予想外だった。
ここまで顔色を変えなかった支眼ですら、目を見開いて周りを眺めている。
「ありがとうございます。今挙手していただいた方々は、松代さんとお知り合いということで間違いないですね?」
数木刑事の問に、彼らは時間差でバラバラ頷く。
その時、数木刑事に青い作業服の人が近づき、何かを耳打ちした。
「すいません。結果がきたようなので。一旦休憩にしましょう」
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