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数木刑事が奥に引っ込み、私たちはその場に取り残された。 茶髪の店員がカウンターに座り水を飲んだのをきっかけに、各々が休息を取り始める。 私と支眼も元いたテーブルに着席した。 一息ついていると、数木刑事とは別の刑事がすごい勢いで近づいてきた。 「おい、定花(さだか)。なんでここにいるんだ」 彼は般若みたいな顔で私の名前を呼び、キッと眼鏡のフレームを押し上げた。 「たまたま。お兄ちゃんこそなんで」 「俺は仕事だ。しかもその横の奴は誰だ?」 「高校時代の友達」 彼はやけに厳しい口調で問い詰めた後、大きくため息をついた。 問瀬徳(といせ とく)、25歳。 私の兄で、現役刑事、過保護でシスコン。 今の発言からも分かるように、私のやることなすことを異様に心配してくる。 ずっと昔からこうで、その度に適当にいなし、かわしていた。 兄は怒りの矛先を支眼にむけたまま、彼を睨んでいる。 「ちょっとやめてよ。いい大人でしょ」 「はぁ?だいたい定花がどこの馬の骨か分からないやつといるから!」 「うるさいなぁ。お兄ちゃんには関係ないよ」 支眼はそのやりとりを見て俯き、くすくす笑い声を漏らした。 兄のそこそこある気迫に怯むことなく、彼は平常どおりだ。 「初めまして、お兄さん。定花さんの友人の六川支眼です」 「……どうも。お前のお兄さんではないですけど」 ツンケンした態度を貫き通す、兄。 にこにこ愛想よく振る舞う、支眼。 これじゃあどっちが大人か分からない。 私は憤る兄と飄々とした支眼を交互に見比べ、2人の和解を早々に諦め、また、我が兄の愚行に呆れながら、彼を支眼から無理やり引き剥がした。 「ところで。私たちいつ帰れるの」 「そうだな。定花たちからも話を聞きたいから。当分かかるな」 強引に話題を切り替え、そう質問するとちゃんとした返答が得られた。 そして、まだ帰れないらしい。 「じゃあ、まだここにいてもいいんですか!」 「あ、あぁ……」 支眼はそれを聞き、嬉々として声をうわずらせた。 兄はその喜びように若干戸惑いをみせる。 あぁ……。 彼は多分この殺人事件にミステリ研究会の血が騒ぎ、テンションぶち上がりだ。 そしてあわよくば事件に介入し、解決しようとしている。 これは困った。 私は彼を止めるように言ってもらうため、兄に話しかけようとしたが、数木刑事がちょうど彼を呼び遮られた。 タイミングが悪い。 数木刑事は兄と少し話した後、私たちのテーブルに向かって大きく手招きをした。 私たちはテーブルの間を縫って、彼のもとへ向かった。
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