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「君が問瀬君の妹さんなんだ。そちらはお友達?」 と、数木刑事。 先程とはうって変わって、優しい声色だ。 また、どこぞの誰かさんとは違い、年下の私たちにも丁寧に接してくれる。 素晴らしい大人だ。 少し聞きたいことがあってね、と彼は前置きをして話し始める。 「まず、入店した時に誰がいましたか」 「えーと。私たち以外全員いました」 そうだよね?と支眼に確認すると、彼は2度首を縦に振った。 「その時松代さんに変な所はなかった?」 「多分、なかったです」 「僕も何も気づきませんでした」 盗み聞きした部分はもちろん、それ以外の時も特に変だと疑うようなことはなかった。 「君たちが入店してから、彼女が倒れるまで何分くらい経っていたと思う?」 「だいたい30分くらいですね」 支眼は悩まず、すぐに答えた。 はっきり覚えてはいないが、私もそれに賛同する。 「その間松代さんは何か食べ物を口にしていた?」 「いや、何も」 彼女はテーブル全面にかなりの速度で倒れ込んでいたし、突っ伏していた時も卓上には何も無かった。 かなり近くに寄って見たので、これは断言できる。 すると刑事2人は下を向き、苦い顔をした。 「どうしました?」 「いやまぁ……」 兄は頭を掻き、数木刑事は言葉を濁す。 支眼が何ですか?とさらに質問をなげかけると、彼は渋々口を開いた。 「松代さんは毒死なんだけど」 「はい」 「使われた毒が効きだすまで30から40分かかるんだって。それと松代さんは君たちの10分前に来店したらしい」 弱ったなぁと数木刑事は、力なく微笑んだ。 情報を整理する。 松代さんは私たちより10分前に来店(17時50分)。 私たちが来てから倒れるまでに30分。 ここまで計40分。 そして、この40分間彼女は何も食べていないが、毒の性質上この間で摂取したと考えられている。 こんなこと、あるのか。 次々と疑問が浮かび上がっては消えず、頭の中をぐるぐる回る。 「お冷は?」 「それはもう調べた。そんで検出されなかった」 水なら最初に配られるはずと思ったが、あえなく撃沈した。 あぁ、やっぱり私の考えることなど所詮素人。 さよなら、私の矮小なひらめき。 しばらく黙っていた支眼の方を見ると、そんな私には目もくれず、その瞳を爛々と輝かせていた。 そして、私にだけ聞こえる声量で最っ高だ……と呟き、興奮で肩を震わせていた。 完全に1人ミステリの世界に入りこみ、気分は探偵、というより事件を前にした熱狂的マニアという感じだ。
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