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「まぁ、この後他の人からも詳しく聞くよ」 数木刑事はありがとうと話を切りあげ、兄と何やら相談し始めた。 支眼はそれをじっと眺め、その場で足を止める。 そんな彼を引っ張り、私は元の席へ静かに戻った。 「これが事情聴取ってやつ?」 支眼は椅子に座るとすぐに興奮で胸を騒がせ、足もばたつかせた。 そうか、あれは事情聴取だったんだ。 ざっくりさっぱりした会話だったので、私は事情聴取だとは認識していなかった。 また、想像していたよりもかなりラフな印象だった。 場所が警察署でなかったこと、兄がいたこと、数木刑事が優しかったこと。 これらのおかげで殺人事件ということへの恐怖は軽減されたし、証拠人としての責務も果たせたと思う。 「支眼はどう思う?この事件」 「んー、なんとも言えないな」 意見を求めたが時期尚早、はっきりした回答は得られなかった。 気持ちが高ぶっているからといって、無闇に考えを展開し、披露したりはしないらしい。 思っていたより、冷静だった。 まぁ部分的にしか事件の状況を知らないので、何も言えないのはよく分かる。 「ところで問瀬、さっきのあれ良かったね」 「やめてよ……。当てずっぽうだから。恥ずかしい」 「いやいや、ナイストライだよ」 俺もお冷のことは一瞬考えたよと続け、持参していたペットボトルのジュースの蓋を開ける。 あれは少々出すぎた真似をした。 しかしそのチャレンジ精神を称えられ、いくらか慰められた気がする。 「それにしても皆松代さんの知り合いなんて、不思議だよねぇ」 そう言って支眼は備え付けの紙ナプキンで遊び始め、よれた紙を折っていった。 そうだった。 私たち以外全員、どうやら松代さんと面識があるらしい。 マッチングアプリの男性はともかく、他の人はどういった関係なのか。 ただ何か関わりがあることだけは著明だが、やっぱり不思議ではある。 そんなことを考えている合間に、支眼は柔らかな皺のついたナプキン製の鶴を完成させていた。 次第に周りがざわざわ動きだし、一斉に人が移動を始めた。 1分くらいしてそのざわめきは段々小さくなり、消えていった。 後ろのテーブル席には、若い女性と数木刑事、兄が移動し、着席していた。 彼女は黒い髪を後ろでお団子にまとめ、紺のカーディガン姿で、ひっそり座っている。 これさぁアリバイを聞くんだよ……と支眼は横でドラマを見ているかのように楽しそうに囁いた。 私は彼をグーで小突き、諌めた。
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