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数木刑事が咳払いをし、3人の間が重々しい空気で満たされる。 「えー、鹿野(しかの)さんですね」 そう呼ばれ、彼女は伏し目がちに頷く。 「松代さんとはどういったご関係ですか」 彼女は極度に萎縮した様子で、大学の友人です……と小さく答えた。 彼女も自分が疑われているということは、十分理解しているのだろう。 線の細い滑らかな指が、小刻みに震えている。 「松代さんはどんな方ですか」 「明るくて友達の多い人です。はっきりものを言う所もあるけど良い子で、決して恨まれるような人柄ではないです」 数木刑事は神妙な面持ちで、ただ頷く。 「本日はなぜこちらにいらっしゃっいましたか?」 数木刑事は、悠然と1番気になる点に切り込んだ。 私も支眼も耳をそばだて、会話に全神経を集中させる。 心做しか、店内がさらに静かになった気がした。 鹿野さんはふっと息を吸って、恐る恐る話し始める。 「鞠佐っ……、松代が初めてマッチングアプリの男性と会うと言うので」 「はい」 「何かあった時のために付き添いで来て欲しいと。ネットで出会った人には多少危険がありますから」 なるほど。 松代さんはどうやら用心深い性格らしい。 この時代、マッチングアプリで人と会うこと自体珍しくはないが、見知らぬ人と2人きりはやはりそれなりのリスクを伴う。 女性なら尚更だ。 それに付き合ってくれる鹿野さんは彼女と、相当仲が良かったと察する。 「ありがとうございます。では次に、こちらにはいつ頃入店されましたか」 「17時30分くらいです。そこの病院で17時まで仕事をした後、ここに」 この店から徒歩5分の場所に、確かに大学病院があった。 終業後、すぐに退勤できるわけではないのでなんやかんやあって17時30分に入店した。 相手方に知り合いとバレるのを避けるため、早めに訪れたのだろう。 もっともらしい。 「では、最後に。松代さんがここに来るまで、また来た後何かを食べた、飲んだということを見聞きしましたか?」 鹿野さんはそれにいいえ、と静かに首を振る。 「鞠佐は、美容に熱心で。間食も滅多にしないですし、お水ですら体を気遣って、お湯や白湯です。口にするものはかなり厳しく管理していました」 多分と保険をかけてはいるが、友達だから分かります、という態度ではっきり主張した。 うん。 一連の流れを聞く限り、鹿野さんの話は筋が通っているし、疑問点もない。 そして、当然毒を混入する隙も見当たらなかった。 支眼はというと頬ずえをつき、何か考えているようないないような顔をして空を見つめている。
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