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数木刑事の姿が外に消えた後、一気に緊張の糸が切れ、店内は安堵と倦怠感で満たされていた。
私も不自然に入っていた力が抜け、テーブルに両手を伸ばし伏せる。
「お疲れじゃーん」
その声に目線だけ向けると、支眼は頬杖をつき、
表情を緩めていた。
全体的に緩くなった雰囲気につられ、もう疲れたーとつい愚痴を漏らしてしまう。
「ねぇ、もう分かった?」
「事件のこと?」
私はもちろんと答えると同時に勢いをつけ、貧弱な腹筋を使って起き上がる。
支眼は松代さんが座っていたテーブルから店の入口の方までを順にじっくり眺めた後、口を開いた。
「まぁ、ね。ざっくり方向性は」
「え、ほんとに?何が分かったの?」
「まだ言わないよ。それに肝心なところが分かってない」
彼は眉間に皺を寄せ、一瞬難しい顔をした。
何か事件解決の糸口が見えているのかもしれない。
しかし、確固たる証拠がないのかそれを私に教えてはくれなかった。
まぁ、思慮深い彼のことだ。
私とは違って、きっとさっきの聴取からたくさんのヒントを手繰り寄せ、思考という名のブロックを積み上げているのだろう。
「なんか、大変なことになっちゃったね」
「そうだねぇ」
私はため息をこぼす。
一方彼はさっきまでの厳しい表情はどこへやら、のんびりした様子で手をグーパーと交互に結んでは開き、手遊びを始めていた。
今にも童謡を歌い出しそうだ。
「よし。一旦外に出よう。新鮮な空気を吸ってリフレッシュだ!」
突然、彼は開いた手のひらをそのままテーブルにうちつけ、その勢いで立ち上がった。
木の天板から鈍い音が跳ね返ってくる。
私がびっくりしているのも束の間、支眼は店の扉の方へずんずん歩き出した。
途中テーブルからはみ出ていた椅子にぶつかったが、気にせず扉へと一直線。
私は動いた椅子を元に戻し、支眼の奇行に驚いた
店内の人に小さく謝りながら、急いで後を追う。
扉を開けると、外はすっかり真っ暗だった。
室内では感じられない涼やかな風を浴び、疲弊した心が徐々に澄んでいく。
店の前には、黒くいかつい自動車が何台も停まって、ただでさえ狭い道を塞いでいた。
多分、警察車両だ。
警察が路上駐車とはいかがなものか。
と、一瞬疑問を呈したが、まぁ有事なので仕方ないことなのだろう。
「……ちょっと寒いね」
「そうだね。俺もそろそろ半袖辞めよっかなー」
支眼は体を縮め、シャツから覗く細い腕をさすっている。
私もつられて、七分丈の袖を引っ張った。
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