11/13
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
数木刑事の姿が外に消えた後、一気に緊張の糸が切れ、店内は安堵と倦怠感で満たされていた。 私も不自然に入っていた力が抜け、テーブルに両手を伸ばし伏せる。 「お疲れじゃーん」 その声に目線だけ向けると、支眼は頬杖をつき、 表情を緩めていた。 全体的に緩くなった雰囲気につられ、もう疲れたーとつい愚痴を漏らしてしまう。 「ねぇ、もう分かった?」 「事件のこと?」 私はもちろんと答えると同時に勢いをつけ、貧弱な腹筋を使って起き上がる。 支眼は松代さんが座っていたテーブルから店の入口の方までを順にじっくり眺めた後、口を開いた。 「まぁ、ね。ざっくり方向性は」 「え、ほんとに?何が分かったの?」 「まだ言わないよ。それに肝心なところが分かってない」 彼は眉間に皺を寄せ、一瞬難しい顔をした。 何か事件解決の糸口が見えているのかもしれない。 しかし、確固たる証拠がないのかそれを私に教えてはくれなかった。 まぁ、思慮深い彼のことだ。 私とは違って、きっとさっきの聴取からたくさんのヒントを手繰り寄せ、思考という名のブロックを積み上げているのだろう。 「なんか、大変なことになっちゃったね」 「そうだねぇ」 私はため息をこぼす。 一方彼はさっきまでの厳しい表情はどこへやら、のんびりした様子で手をグーパーと交互に結んでは開き、手遊びを始めていた。 今にも童謡を歌い出しそうだ。 「よし。一旦外に出よう。新鮮な空気を吸ってリフレッシュだ!」 突然、彼は開いた手のひらをそのままテーブルにうちつけ、その勢いで立ち上がった。 木の天板から鈍い音が跳ね返ってくる。 私がびっくりしているのも束の間、支眼は店の扉の方へずんずん歩き出した。 途中テーブルからはみ出ていた椅子にぶつかったが、気にせず扉へと一直線。 私は動いた椅子を元に戻し、支眼の奇行に驚いた 店内の人に小さく謝りながら、急いで後を追う。 扉を開けると、外はすっかり真っ暗だった。 室内では感じられない涼やかな風を浴び、疲弊した心が徐々に澄んでいく。 店の前には、黒くいかつい自動車が何台も停まって、ただでさえ狭い道を塞いでいた。 多分、警察車両だ。 警察が路上駐車とはいかがなものか。 と、一瞬疑問を呈したが、まぁ有事なので仕方ないことなのだろう。 「……ちょっと寒いね」 「そうだね。俺もそろそろ半袖辞めよっかなー」 支眼は体を縮め、シャツから覗く細い腕をさすっている。 私もつられて、七分丈の袖を引っ張った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!