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「寒さを紛らわせるために、ちょっと動こ」 支眼はなぜかそう一言ことわって、奇妙なステップを踏み、手を広げ、重心を失って力尽きる寸前のコマのように回りだす。 また、変なことをやりだした。 しかも、畳半上くらいの玄関ポーチでそんなことをするから、手が当たって迷惑だ。 私は一定の距離をとり、少々うんざりしながらそれを見守っていると、彼は急に地面に座り込んだ。 私も慌てて、膝に手を置き中腰になる。 「え。大丈夫?」 「あー、酔ったぁ。俺、三半規管弱いんだよね」 「じゃあ、回るな」 私は華麗なるツッコミを入れると同時に、冷たい視線も送る。 彼はそんなことお構いなしに、へらっと歯を見せて、足の裏に力を込め立ち上がろうとした。 しかしながら、平衡感覚がおかしくなったようだ。 両手でバランスをとろうとするが、ふらついて上手く立てない。 扉のすぐ横、つる草の裏に設置されたウォーターサーバーを彼は支えに体重をかけ、やっと立てた。 いやぁ、困ったねと他人事のように、支眼は笑い飛ばす。 そして、彼は突然ピタッと動きを止める。 おおよそ数十秒、まるで石像のように瞬きひとつすらしなかった。 調子が悪いのかと心配し体調を確認をしたが、すでに心ここにあらず、大丈夫と生返事をする。 とりあえず、体調不良ではないみたいだ。 「ねぇ、問瀬!」 支眼は急にスイッチが入り、最早叫び声に近い声をあげた。 私はそのボリュームに驚き、ひぃっとか細く情けない声を出す。 彼はさっきからテンションが上がったり下がったり、感情の起伏がかなり激しい。 「いいこと思いついた」 そう呟き鼻息を荒くしたと思ったら、警察車両の横に立つ数木刑事の方へ一目散に駆け出した。 「あ、支眼!ダメだって!」 その声も虚しく彼には届かず。 どうやらそのいいこと、とやらを今すぐ報告しに行くため彼は走っている。 あぁー。 これはもう、止めたって無駄だ。 私はスニーカーの紐を固く結び直して、また彼の後を追った。
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