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「数木刑事!」
支眼は元気いっぱい呼びかけ、大した距離がないにも関わらず、大きく手を振った。
数木刑事はそれに気づいて軽く手を挙げ、兄はその横で迷惑そうに、顔をしかめている。
「お、どうしましたか?」
「あれ、あれです。それ」
後方、斜め30度。
支眼はその方向にピーンと人差し指を伸ばす。
そして何かを早く言いたそうに、指示語だけを使って私たちの視線を半ば強引に誘導させる。
数木刑事、兄、私は支眼の言う通りに、順番に後ろを振り返り、彼の次の言葉を待った。
「ウォーターサーバー。あそこにあるんですけど」
「えぇ?あ、そうだね」
支眼の指先の延長線上には、確かにウォーターサーバーがあった。
サーバー上部に設置されたガロンボトルの水は橙色に照らされ、煌めいている。
刑事2人はそれが何か?と言いたげに、支眼を見た。
私も彼の言いたいことをよく理解できずに、刑事たちと同じように首を捻る。
「あれに毒が入っているか調べました?ウォーターサーバーなら、店に入る前に使ったかもしれません」
と、支眼。
「いやいや。ウォーターサーバーなんかに毒を入れたら、不特定多数を殺めてしまうぞ。証拠だってボトルか機械に残るだろ」
「もちろん、あくまで可能性があるだけです。でも調べてみる価値はあると思います」
兄の至極真っ当な指摘に対して、彼ははっきりそう言い返した。
その真剣な眼差しに兄は眉をひそめたがすぐに黙って、数木刑事の様子を伺った。
上司である彼に、判断を委ねるみたいだ。
「よしっ。問瀬君、お願いします」
数木刑事は兄の背中を強く押し、あっさりゴーサインを出した。
兄は若干不服そうな様子で承知しましたと短く告げ、前方の車に小走りで近づいて行く。
「君は、松代さんが入店する前に毒を盛られたと思っているんだね」
数木刑事は兄の背中を見つめたまま零す。
支眼はそれに静かに頷いた。
確かに、そう考えるのは自然だった。
店内で何も口にしていないということは、それより前に、という可能性はある。
さらに店の前にあるウォーターサーバーなら、毒の効果が表れるのが30から40分という時間の問題も容易に解決できる。
「でもそれなら、元々松代さんが持っていた食べ物とか飲み物でってことはないの?」
「多分それはないね。彼女は今日信じられないくらい小さいバックしかもってなかったから」
支眼は今流行りの貴重品すら入らないようなバックの形状を蔑みつつ、私の意見を却下した。
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