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あれからどのくらい経っただろうか。
青い作業服の人たちが店の中や外を忙しなく行き交うのを何度も見送り、私たちは席でただひたすらに待っていた。
しばらくすると、刑事たちが私たちの前に姿を現し、目の前の椅子にどっこいしょと腰をかける。
気になる検出結果が出たようだ。
緊迫した空気が流れ、喋り出そうとする数木刑事の喉仏がゆっくり上下する。
「……残念だったよ」
数木刑事のその一言で、結果は暗に示された。
そう。ウォーターサーバーから毒は出てこなかった。
彼の言い方こそそんなに重くないが、落胆していることは表情から十分読み取れる。
「ちなみにボトル、サーバ本体のどちらからも出ませんでした」
と、数木刑事は追加で報告した。
やはりそう上手くはいかないものだ。
私は心の中でがっかりしていた一方、支眼はそんな様子を一切見せず、ありがとうございますと淡々とお礼だけを述べた。
「ちょっと弁が立つからって。もう口を挟むんじゃないよ」
兄は嫌味ったらしくメガネのフレームを光らせ、支眼を牽制した。
彼ははーいと間伸びした返事をして、何食わぬ顔でさらさらの金髪に指を通す。
兄の注意は特に堪えていないように見えた。
さすがだ。
「じゃあ、僕たちは仕事に戻るよ。あ、そうそう。2人はそろそろ帰れると思うから。もうちょっとだけ我慢してください」
「分かりました」
「後、支眼君も。何か思いついたらまた遠慮なく教えてください」
「え、ちょっと数木さん!なんでそんなこと言うんですか!」
「えー。我々もまだ何も解明できてないじゃないですか。アイディアは多い方が良いですし?」
それに彼は頭が切れるから大事な戦力ですよ、と数木刑事は兄の抗議に対し、あっけらかんと答えた。
彼はかなり柔軟な考えの持ち主というか、緩いというか、自由というか。
しかもこの件は彼の管轄で、彼がこの場では長、兄も強くは主張できない。
兄といえばもう、見事な仏頂面だ。
ただこれに関してはしゃしゃり出るなという兄の言い分は正しいので、少し不憫ではある。
「では、また」
数木刑事はそう告げ、風をきってスマートにまた店の外へ消えていった。
「振り出しに戻ったね……」
「そうだね。いやぁ、むしろやる気でてきたよ」
支眼は半袖のシャツを肩まで捲り、細くて白い腕でガッツポーズをする。
「あのさ、やっぱり入店前が怪しい?」
「俺はそう思ってる」
それについては数木刑事も特に否定していなかった。
でも、ウォーターサーバーが違うなら。
一体他にどうやって。
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