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「やぁやぁ。汚いけど適当に座ってください」 外は寒いから、という数木刑事のご厚意もあり、私たちは警察車両の中で話を聞いてもらえることになった。 運転席に兄、助手席には数木刑事。 そして、後部座席に私と支眼が乗り込んでいった。 誰かがドアを開閉するごとに、車内のLEDライトがチカチカ点滅する。 「早速この事件のことですが。犯人がおそらくわかりました」 支眼は車のドアが全て閉まるのを待ち、そう言った。 窓から分散した街灯の光の筋が入って、車内は仄かに明るい。 その僅かな光をうけ、刑事2人が目を丸くし驚いている様子がバックミラーに映っていた。 「詳しく聞かせてください」 数木刑事に頼まれ、支眼はバックミラー越しに前の2人と視線を合わせて、話を続ける。 「まず事件を整理しましょう。被害者の松代さんは、18時30分頃毒殺されました。」 「そうですね」 「はい。また、今回使用された毒は効果が出るまでに30分から40分。しかし、松代さんが入店した17時50分から倒れるまでの40分間、僕を含め店内の人間は、彼女が何か飲んだり食べたりしたことを全く見ていません」 兄は防犯カメラでもあれば一発だったのになぁ、とハンドルの上に腕と顎を乗せ、呟いた。 小規模個人店なので、そんな設備はないらしい。 「ここで大きく2つの謎ができあがります」 支眼は両手の人差し指を1本ずつ右、左と顔の前に出す。 「1つ目は毒を飲んだのか。2つ目は毒を摂取したのか」 まぁ当たり前ですね、と彼は出した指をパタッと折りたたみ、拳の中に収める。 彼の発言に対して車中一同、無言で肯定を示した。 支眼は息を吸い、また話し始める。 「最初に、1つ目のいつについてですが、これは数木刑事も問瀬刑事も僕も、きっと同じように考えていると思います」 「おそらく店に入る前、ですね」 数木刑事の返事に、支眼はしっかり頷いた。 入店前に毒を飲んだというのが現在有力視されている、ということは私も理解している。 「じゃあ、どのくらい入店前なのか?時間を逆算してみます。すると毒の効果があらわれる時間との兼ね合いで、入店直前が最も可能性が高いと思います」 「はい。僕も同意見です。松代さんは持病もなく健康な方でした。毒の効き出す時間が大きくずれることはないでしょう」 数木刑事の補足情報によって、支眼の仮説はひとつ確からしいものになった。 兄も特に口を挟んでこないので、ここまでは警察の見解と概ね一致しているようだ。
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