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「では、このいつの問題については、一旦入店直前とします」
こうして1つ目の謎、『いつ毒を飲んだのか』はかなりスムーズに解答が導き出された。
残るはどうやっての方だ。
「次に2つ目です。どうやって松代さんに毒を盛ったのか。こちらが非常に厄介です」
そう。これに私たちは随分頭を悩ませていたのだ。
唯一、頼みの綱であったウォーターサーバーへの毒物混入はすでに否定されている。
「あの、まず確認したいことがあるのですが」
「何ですか?」
「今回使われていた毒はどんな性質がありましたか」
数木刑事は兄に資料を素早く用意させ、それを発表するように促した。
兄は資料の一部にスマホのライトを当て、読みあげる。
「昨今工場などで使われている劇物。比較的安価で手に入れやすく、淡黄色の粉末で無味無臭。水への溶解度は非常に高い。致死量は約30mg」
「ありがとうございます」
兄はいくつかの箇条書きを指で入念になぞり、言いそびれたことがないかチェックしている。
「今ので確信しましたが、やはり毒は水に溶けていたと思います」
「それはそうだ。でも、ウォーターサーバーはダメだったじゃないか」
と、兄。
支眼は指摘されることを予想していたのか、平然と相槌をうって話を流す。
「さて、話は変わります。そもそも松代さんは店の前で何を飲もうとしていたのか?」
彼の質問に、全員が頭上にはてなマークを浮かべた。
そりゃあ、今の流れをくめば、彼女が飲んだのは水だろう。
松代さんは何の飲み物ももっていなかったし、そもそも支眼がはじめに毒は水に溶けていたと言ったのだ。
「彼女が口にしたのは、水は水でもお湯です」
「え、あ。お湯?」
私はよく分からないまま、すっとんきょうな声を出してしまった。
刑事たちは声こそ出さなかったものの、私と同じように不思議がっている。
「そう、お湯」
「それはどういうこと?」
「松代さんは美容と健康に凝っていたんだ。それに鹿野さんも彼女は普段お湯を好んで飲む、と言っていた」
私は友人の鹿野さんが、松代さんはかなり美容に気を遣っていると言っていたのを思い出す。
お湯は冷水と比べて体を内側から温め、代謝アップが期待できるし、胃腸にも優しい。
美容オタク、健康オタクの彼女なら、そこまで徹底していたかもしれない。
「松代さん的には本当は白湯が良かったんだろうけどね。まぁ、一般的なウォーターサーバーのお湯はマックスで90℃前後だから」
彼の説明によると白湯は、1度沸騰させた水のことをいうらしい。
そっちの方がさらに美肌効果などを期待できるそうだ。
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