1.マッチングアプリにはご用心

3/7
前へ
/34ページ
次へ
「兄ちゃんに、事件ないか聞いてみてよ」 「えぇ?」 「絶対眠ってるよ、素晴らしい謎が!」 さっき思いついたのは、これらしい。 これは思っていたより、ミステリーに侵されている。 そして、想像していた以上の彼の熱量に私は驚き、また同時に呆れた。 私は食堂内で流れるドビュッシーの優雅なピアノ曲に耳を傾けながら、口を開いた。 「聞けるわけないでしょ、そんなの。だいたい事件があったって詳細は教えてくれないだろうし」 「そう?」 「そう。守秘義務とかきっとあると思うしね」 はっきり拒否の意を示すと、支眼はそっかぁと残念そうに眉を下げ、遠くを眺めた。 その物憂げな表情を見ると、ちょっとだけ可哀想で手を差し伸べたくなったが、現状私にできることはない。 「ほら、じゃあ謎かどうかは分かんないけど」 「ん?」 「私、問瀬 定花は夏休み中にある変化がありました。それは一体なんでしょうか」 彼への少しのフォローと、すでに昼食を食べ終え、暇しているということでこんな問題を出してみた。 まぁ、謎ではない。ほぼクイズ。 しかもかなり私事の。 それでも支眼は興味を示したのかすっと目を細め、私を頭のてっぺんからじっくり観察しはじめた。 その仕草は、割と探偵っぽい。 そして、結構見られて恥ずかしい。 「んー、見た目はほとんど変わってないね。外に出てないから日焼けもしてない」 「悪かったね、外に出てなくて!」 「あー、怒らないで。これは事実確認だから」 なるほど。 こういうことを合宿でやってたのか。 案外、面白いかもしれない。 「髪の毛ちょっと切った?」 「うん、毛先だけ。でもそれは不正解」 「だよなぁ。問瀬がそんな安直な問題出すわけないもんな」 支眼は勝手に納得し、うどんの器を爪の先でコツコツ弾き、うつむいて考えはじめる。 時折るんるん首を振っては止まってを繰り返し、機嫌がいいみたいだ。 そんな楽しそうな様子を見ていると、私もだんだんのってきた。 「なかなか難問でしょ?」 「そうだねぇ。非常に考えがいがあるよ」 「ほんとに?しょうもない感じだけど」 「ほんとだよ。それにもう解った気がする」 その支眼の発言に、驚いた。 え、もうわかったの? いや、まだヒントは与えていないはず。 だから、絶対とは言わないけど、ほとんど当てられないだろう。 しかし、彼はやけに自信ありげな態度で、椅子の背にもたれ、大きく伸びをしている。 んー、余裕そう。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加