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「兄ちゃんに、事件ないか聞いてみてよ」
「えぇ?」
「絶対眠ってるよ、素晴らしい謎が!」
さっき思いついたのは、これらしい。
これは思っていたより、ミステリーに侵されている。
そして、想像していた以上の彼の熱量に私は驚き、また同時に呆れた。
私は食堂内で流れるドビュッシーの優雅なピアノ曲に耳を傾けながら、口を開いた。
「聞けるわけないでしょ、そんなの。だいたい事件があったって詳細は教えてくれないだろうし」
「そう?」
「そう。守秘義務とかきっとあると思うしね」
はっきり拒否の意を示すと、支眼はそっかぁと残念そうに眉を下げ、遠くを眺めた。
その物憂げな表情を見ると、ちょっとだけ可哀想で手を差し伸べたくなったが、現状私にできることはない。
「ほら、じゃあ謎かどうかは分かんないけど」
「ん?」
「私、問瀬 定花は夏休み中にある変化がありました。それは一体なんでしょうか」
彼への少しのフォローと、すでに昼食を食べ終え、暇しているということでこんな問題を出してみた。
まぁ、謎ではない。ほぼクイズ。
しかもかなり私事の。
それでも支眼は興味を示したのかすっと目を細め、私を頭のてっぺんからじっくり観察しはじめた。
その仕草は、割と探偵っぽい。
そして、結構見られて恥ずかしい。
「んー、見た目はほとんど変わってないね。外に出てないから日焼けもしてない」
「悪かったね、外に出てなくて!」
「あー、怒らないで。これは事実確認だから」
なるほど。
こういうことを合宿でやってたのか。
案外、面白いかもしれない。
「髪の毛ちょっと切った?」
「うん、毛先だけ。でもそれは不正解」
「だよなぁ。問瀬がそんな安直な問題出すわけないもんな」
支眼は勝手に納得し、うどんの器を爪の先でコツコツ弾き、うつむいて考えはじめる。
時折るんるん首を振っては止まってを繰り返し、機嫌がいいみたいだ。
そんな楽しそうな様子を見ていると、私もだんだんのってきた。
「なかなか難問でしょ?」
「そうだねぇ。非常に考えがいがあるよ」
「ほんとに?しょうもない感じだけど」
「ほんとだよ。それにもう解った気がする」
その支眼の発言に、驚いた。
え、もうわかったの?
いや、まだヒントは与えていないはず。
だから、絶対とは言わないけど、ほとんど当てられないだろう。
しかし、彼はやけに自信ありげな態度で、椅子の背にもたれ、大きく伸びをしている。
んー、余裕そう。
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