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2. 胡乱なお茶会
見渡す限り、山、山、山。
辺り一面緑が生い茂り、非常に目に優しい環境が広がっている。
「……ここも東京なんだね」
「そうだね。東京は案外広いみたぁい」
その呟きに対し、私の隣に立つ男、六川 支眼は欠伸をしながら返事をした。
ウルフカットの金髪を僅かな木漏れ日で煌めかせ、呑気に腕を伸ばし、ストレッチをしている。
私も美味しい空気を吸って、気持ちを整えた。
私たちは今、東京の奥地に来ている。
シティーガールゆえ、現在地の地理的なことは全く分からない。
ただ、とにかく都心からかなり離れていることは確かだった。
周りは山だらけで人の気配は全く感じられず、時折小鳥のさえずりが聞こえてくる。
あまりののどかさに私の居住地である東京と本当に同じ東京なのか、疑いたくなる。
そもそもなぜ私と支眼がこんな田舎に来ているのか。
事の発端は、遡ること1週間。
私たちはいつもの様に学食で昼食を共にし、だるい授業システムTOP5の話で盛り上がったり、盛り上がらなかったりしていた。
お互いの日々の不満を十分に吐き出し、一息ついたところで支眼の方から話しかけてきた。
「あのさ。俺のおばあちゃん、お茶の先生なんだけどさぁ」
「へー、そうなの。お茶?」
「そう。あぁ、お茶って茶道のことね」
そう言って支眼は大袈裟に茶筅を振る真似をし、皿の上で箸を素早く動かす。
私はお行儀悪いからやめなさいと一応注意したが、その滑稽な動きについ笑ってしまった。
「それでさ、来週お茶会があって。俺も手伝い頼まれてるんだけど」
「うんうん」
「いかんせん人手が足りてなくて。もし問瀬が空いてたら来てほしいんだ」
支眼は私をきゅるりとした丸い瞳で見上げ、両手を合わせ可愛らしくお願いっのポーズをとった。
これまでの人生、こうやって可愛子ぶって人にお願いしてきたのだろう。
……小賢しい奴め。
じとり彼を見つめていると、問瀬にしか頼めないし、ともう一押しされる。
「……いいよ。いつなの?」
「いいの?ありがとう!日にちはね……、ちょっと待って」
私がその圧に負けて承諾すると、彼はすぐに表情を明るくし、日程を確認しようとスマホのカレンダーアプリを起動させ、そっと25日を指さした。
そして、あれよあれよという間に時間など詳細が決まり、今に至る。
「じゃあ、行こっか」
支眼はそう言って、神社にあるような石灯篭(定かではない)が両脇にそびえたつ小道の方を示した。
奥には彼の祖母の家と思われる建物がちらりと木々の合間から覗いている。
支眼はその家へと続く石畳を躊躇なく踏み、先へ進んでいった。
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