1.マッチングアプリにはご用心

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私たちはそれから一息ついて、食器を返却するため席を立った。 お盆を持ってうろうろする人の波を上手く避けながら、2人並んで赤色で書かれた返却口の文字を目指す。 「支眼、この後授業?」 「うん、次の時間。問瀬は?」 「私も。後1コマだけ」 私は箸とコップを所定のカゴに片付けながら、そう尋ねる。 私と彼は学部が異なるので、取っている授業も全然違う。 でも、お昼ご飯だけはこうしていつも一緒に学食で食べていた。 支眼曰く、問瀬は大学に友達いないから、1人でご飯食べるのかわいそー、だそうだ。 同情という名のからかいを受け癪だが、学内に友達がいないのは事実なので、仕方なく許している。 これは本人には伝えたくないけど、一緒にご飯を食べてくれること自体は感謝している。 大学で支眼以外誰とも話さず帰宅、なんてことはこの1年半よくあった。 彼と会う予定がなければ、おそらく大学サボりまくりJrが誕生していたと思う。 「あ、そういえば」 支眼はお盆をスチール製の棚に置き、何か思い出したようで振り返った。 「今日、夜空いてる?」 「夜ね。ちょっと待って」 うーん、何もなかったはず……。 スケジュールアプリを起動させ、今晩の予定を念のため確認する。 よし、バイトはない。 私はスマホをしまうと同時に、自分の記憶力のなさにがっかりした。 「空いてるよ」 「ほんと!じゃあさ、この飯屋行こ。友達にクーポンもらったんだよね」 彼はそう言い、財布から小さな赤い紙を取り出し、私の前にうぇーいと掲げる。 紙にはお会計20パーセントオフと黄色い文字がでかでか印刷されている。 外食かぁ。 親しい女友達とのランチ会はよくひらかれているが、ディナーはほとんどないな。 それに、飲み会等はもちろん断っている。 でもまぁ、支眼とならいっか。 「分かった。今日行こう」 「やった!じゃあ、授業終わったら連絡するよ」 彼は私に手を振って、すぐに4号棟の方へ走り出した。 全く、自由な人だ。 私もその金髪の後を追うように、颯爽と食堂を後にした。
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