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私たちはそれから一息ついて、食器を返却するため席を立った。
お盆を持ってうろうろする人の波を上手く避けながら、2人並んで赤色で書かれた返却口の文字を目指す。
「支眼、この後授業?」
「うん、次の時間。問瀬は?」
「私も。後1コマだけ」
私は箸とコップを所定のカゴに片付けながら、そう尋ねる。
私と彼は学部が異なるので、取っている授業も全然違う。
でも、お昼ご飯だけはこうしていつも一緒に学食で食べていた。
支眼曰く、問瀬は大学に友達いないから、1人でご飯食べるのかわいそー、だそうだ。
同情という名のからかいを受け癪だが、学内に友達がいないのは事実なので、仕方なく許している。
これは本人には伝えたくないけど、一緒にご飯を食べてくれること自体は感謝している。
大学で支眼以外誰とも話さず帰宅、なんてことはこの1年半よくあった。
彼と会う予定がなければ、おそらく大学サボりまくりJrが誕生していたと思う。
「あ、そういえば」
支眼はお盆をスチール製の棚に置き、何か思い出したようで振り返った。
「今日、夜空いてる?」
「夜ね。ちょっと待って」
うーん、何もなかったはず……。
スケジュールアプリを起動させ、今晩の予定を念のため確認する。
よし、バイトはない。
私はスマホをしまうと同時に、自分の記憶力のなさにがっかりした。
「空いてるよ」
「ほんと!じゃあさ、この飯屋行こ。友達にクーポンもらったんだよね」
彼はそう言い、財布から小さな赤い紙を取り出し、私の前にうぇーいと掲げる。
紙にはお会計20パーセントオフと黄色い文字がでかでか印刷されている。
外食かぁ。
親しい女友達とのランチ会はよくひらかれているが、ディナーはほとんどないな。
それに、飲み会等はもちろん断っている。
でもまぁ、支眼とならいっか。
「分かった。今日行こう」
「やった!じゃあ、授業終わったら連絡するよ」
彼は私に手を振って、すぐに4号棟の方へ走り出した。
全く、自由な人だ。
私もその金髪の後を追うように、颯爽と食堂を後にした。
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