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あれ。音が鳴らない。 2人の間に不自然な静寂がおとずれた。 今度は私がベルを押し、しばらく待ってみるもお店の人は一向に現れない。 さらに時間をおいて、もう一度押したがそれも応答なし。 その後、支眼はまっすぐ天井に向かって片手をあげ、すいませーんと声を張りあげた。 「注文お願いします。このベル鳴らなくて」 と、支眼。 すると白髪混じりの男性店員が小走りでやってきて、謝罪をし、丁寧に頭を下げた。 支眼は大丈夫ですよと爽やかに微笑んでは金髪を揺らし、早速注文したいもののメニューを読み上げていく。 「以上でよろしいでしょうか」 「はい、お願いします」 「ありがとうございます。では申し訳ないですが、そちらのベル回収させていただきます」 支眼はテーブルの上からベルを取って、電池切れですかね?と声をかけ店員さんに手渡した。 店員さんはベルの裏側を確認し、首を傾げる。 「ですかねぇ……。最近、物がよく壊れましてね。困っているんですよ」 「そうなんですか?それは大変だ」 「はい、今朝もポットが1つ寿命を迎えまして」 店員さんはそう言って眉を下げ、エプロンのポケットにそっとベルをしまう。 悲しいかな、電化製品が次々壊れることってなぜかある。 あれは一体、なんなんだろう。 生活における不思議のひとつか何かだろうか。 そんな不憫な彼の背中を見送り、私は支眼に話しかける。 「雰囲気いいお店だね。普段からこんな所来るんだ」 「いやいや、めったに来ないよ。友達が教えてくれたからね」 「ふーん」 怪しいなぁとじっとり見て疑っていると、彼はほんとだよと頬を膨らませ憤慨し、抗議する。 別に、なんだって構わないけど。 私は最初に運ばれていた水に少し口をつけ、隣のテーブルの会話に耳を傾けた。 どうやら彼らは、マッチングアプリで出会った人達のようだ。 会話の随所にアプリやチャットと言う単語が散りばめられているし、お互いMさん、Yさんなんて呼び方をしているので多分間違いない。 年は、おそらく20代半ばくらい。 平日ということもあって、2人とも仕事帰りでスーツ姿だ。 数年後には、私と支眼もああいう風になるのだろうか。 考えてみても、あまり実感はわかなかった。 引き続き悪趣味な盗み聞きを遂行しながら、支眼とくだらない話をし料理を待っていると、突然、ガタッと大きな音がした。 何だ? 慌てて音のした方、横を見る。 ____隣の席の女性がテーブルの上に突っ伏して、倒れていた。
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