1.マッチングアプリにはご用心

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1.マッチングアプリにはご用心

机の上にお盆を置くと、プラスチック製の箸が転がり、お皿にぶつかってカランと音をたてた。 私は片手で箸をおさえ、もう片方の手で器用に椅子を引き、目の前の彼に声をかける。 「今日学食、混んでるね」 「あぁ、確かに。夏休み明けだからかな」 私の前に座り、ずるずる温玉うどんをすすっている彼、六川 支眼(ろくかわ しめ)は、麺が飛び散らないよう食べる勢いを緩め、顔をあげた。 時間はちょうど昼休みに差しかかり、学食内はどんどん指数関数的に人が増え、一気に騒がしくなっていく。 問瀬 定花(といせ さだか)、20歳。 都内の私立大学に通う、平凡な大学2年生。 毎日適当に授業とバイトとをこなし、それなりに充実した日々を過ごしている。 まぁ、今のところ大学生活は可もなく不可もなく、といったところだ。 あ、そういえば前期の成績には可はあったな。 不可はないけど。 また、うどんに夢中な正面の彼、六川 支眼(ろくかわ しめ)は高校時代の同級生である。 私たちは縁あって、現在同じ大学に通っていた。 彼の外見といえば金髪ウルフカット、耳には軟骨にピアス、幾何学模様のオーバーサイズの柄シャツ、厚底のサンダルとチャラさ全開、今どきボーイだ。 その派手な格好に加え、端正な顔立ちで彼は学内で割と目立っていた。 ちょっと前までは、年相応の少年という感じでかわいかったのに……。 そんな今もあの人かっこいいー、とひそひそ話す声が近くのテーブルから聞こえてくる。 一方、当の本人は聞こえていないのか全く気にしておらず、ペットボトルのりんごジュースをあおっていた。 「ねぇ問瀬、夏休みなんかした?」 「えー。うーん、ほとんどバイト。あ、高校の友達とカラオケ行ったかな。それくらい」 私のつまらない回答に支眼はあくびをして、これまたつまらなさそうに相槌をうった。 自分から質問したんだから、もうちょっと興味をもってほしい。 「支眼は何してたの、この休み」 私が不満げにそう尋ねると、彼はキラキラと目を輝かせ、よくぞ聞いてくれた!とこちらに身を乗りだしてきた。 「俺はね、ミステリ研究会でトリック100本考案合宿に行った」 「へー、何それ。楽しかった?」 「うん。事件が起こればもっと良かったんだけど」 「事件ねぇ……。そんな簡単にないでしょ」 支眼は大学に入ってから、ミステリ研究会に所属した。 その影響で、ミステリーミステリー、推理、推理と滅多にないであろう謎を日々探し求めている。 「最近ほんと、ミステリー漬けだね。前からそんな好きだったっけ?」 「うーん、小説は小学生くらいから好きだったけど。今の方がハマってる」 言われてみれば、カバンに推理小説が入っているのを何度か見たことがあった。
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