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案の定、自由時間になると小さい人間の周りに人だかりができた。
私はその隣の席で気まずかったから、机に突っ伏して時間をつぶした。
「っていうか、よく見たらめっちゃかわいいじゃねえか」調子を取り戻したドッジが言った。「なんて呼べばいいんだ?」
こちらの話なんて理解しているはずがないのに、そんな質問をするなんてアホだ。
「ドースル」
ほら、通じてない。
「どーする? じゃあ今日からお前はドスルって名前だ!」
無理やりにでも会話が成立したことにするらしい。
「いいじゃん」
「それでいこう!」
「よろしく、ドスル」
あっという間に名前がドスルになっちゃった。どうせ食べられる運命なのに、くだらない。
「なあ、一か月後に食べるなんてこと忘れて、楽しもうぜ」
ドッジが提案して、意味の分からない歓声があちこちで上がった。
「ドーシタ、ドーシタ」
いちいち小さい人間と書くのも面倒だから、みんなに倣って私もドスルと書くことにする。
ドスルはおそらく戸惑っている様子で奇声を発する。
「かわいい!」
ドスルを眺めながら、ピノが幸せそうに笑った。
「あれ、なんだこれ」
そこで、ドスルの毛のない頭を撫でていたドッジが、訝しげに声を上げた。
ちらりと見てみると、ドッジはドスルの耳たぶに手を当てて、眉を顰めている。
そこに丸い膨らみができている。腫れているというよりは、まるで皮の裏に何かを入れられているような膨らみの仕方だ。
「ああ、それはきっとチップが入っているんだ」ロッカーから荷物を取り出していたロジンが、スマートに言った。「数年前から、小さい人間にはGPS機能のついたチップを埋め込むことが義務付けられている。ほら、僕らがまだ小さいころに、小さい人間が養殖場から脱走する事件が起きただろう? それが原因で、小さい人間の脱走を防ぐために、常に現在地を把握できるようになったんだ」
「へぇー、よくわかんないけどすげー」
ドッジが馬鹿みたいな反応をする。するとロジンは驚いたような顔でドッジを見た。
「これがどういうことか分からないのかい?」ふっと笑みをこぼす。「小さい人間が殺されないようにこっそり逃す、なんていう手荒な真似はできないっていうことだよ」
「……別に、そんなこと考えてねえよ」ドッジは不貞腐れたようにそう言い捨て、「な、ドスル?」
ドスルのつるつるな両肩をつかんでそう放った。
私は笑いをこらえていた。
少なくとも私は、どうせ食べる食材に過ぎない小さい人間と、友情を紡いでいく必要なんてないと思う。
いやでも、よく考えてみたら最終的に死ぬのは私たちも一緒だ。ってことは、どうせ死ぬ小さい人間と一緒の生活を楽しむ必要がないというのなら、皆にもその理論が当てはまってしまう。
たとえばペットだって、いつか死ぬのを分かったうえで飼うわけだし……。
そう考えると小さい人間との生活を楽しもうとする彼らに、「どうせ死ぬから」は通じないのかもしれない。
「オマエハオイシイニク」
どこで覚えたのか、ドスルはドッジを指さしてそう言った。
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