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「おい」
感動の場面を見守っていた新伍に、死神が声をかける。
「お前の知り合いはいないか?」
「俺?」
新伍は彼岸を見渡す。
ほかにも何人か姿はあるが、新伍の知った顔は誰もいない。
「いや、いないねえ」
「変だな。もうすぐ死ぬあんたなら、誰かが彼岸に迎えに出ててもいいんだが」
死神は首を傾げる。
「俺の二親はとうの昔に亡くなってるからな。俺のことなんか忘れてるのかもしれねえな。さて、そろそろ現世に戻るとするかい」
「そうか、わかった」
死神は新伍に同情したのか声が沈んでいる。
「ではまた私の言うとおりに漕いでくれ。そうすれば江戸に戻れる」
白い靄が舟を包み始めた。
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