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1. 死神
新伍が早朝、長屋の木戸から仕事に出かけようとすると、木戸の横に怪しい男が立っていた。
男は烏帽子に直垂という装束で、町人が暮らすこの下町にはまったく似つかわしくない。
何より、そんな目立つ格好なのに、木戸の前を通りかかる人々が一向に気にする様子がないのが不思議だった。
見えていないのだ。
男も無表情で、ただ長屋に向かって立っているだけだ。
ふと新伍は、幼い頃の出来事を思い出した。
米問屋の先代の隠居所が、この近くにあった。その門前に、同じような恰好の男が立っているのをかつて見たことがあった。
出入りする屋敷の者たちは、一向に気づく様子もない。
新伍は祖母に手を引かれて通りかかり、「ばあちゃん、変な男が立ってるよ」と告げたが、祖母にも見えない。
それでその男の恰好を説明すると、祖母は顔色を変え、急ぎ足で屋敷の前を通り過ぎながら囁いた。
「それは死神だ。ここのご隠居さんが病に臥せっておられるが、いよいよ危ないと聞いた。死神が迎えに来たんだ。数日でご隠居さんは連れて行かれるよ。いいかい、死神と目を合わせちゃだめだよ」
そしてご隠居は三日後に亡くなった。
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