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(死神か……)
心の中で呟くと、死神がこちらを見て目が合ってしまう。
「お前、見えるのか?」
死神は明らかに動揺している。
「あ、ああ」と新伍は肯き、「お前、死神だな」と指摘する。
「ど、どうして。なんで、わかるんだ」
顔色の悪い死神の顔が、さらに蒼白になった。
そして、「頼む。私を見たことは内緒にしてくれ」と泣きそうな顔で頼んでくる。
そこへ長屋から、俸手振りの金次が出てきた。
「早いね、新さん」
「お早う。金さん」
新伍が答えると、金次は空の木桶を下げた天秤棒を担ぎ、威勢よく駆け出して行った。
「お前、新さんというのか?」
死神が新伍に尋ねた。
「ああ、そうだ」
「そうか、お前か」
新伍ははっとする。
(もしや……)
「俺? 俺が死ぬのか? 俺を迎えに来たのか?」
「ああ、残念ながら。三日後だ」
(そうだったか……)
新伍は驚いたが、そこは江戸っ子、潔く覚悟を決めた。
幼い頃に二親を亡くし、天涯孤独の身だ。女房も子供もいない。
だから、いつお迎えが来たって悔いはない。
ただ……。
(心配なのは、女将さんとお嬢さんだ)
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