1. 死神

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(死神か……)  心の中で(つぶや)くと、死神がこちらを見て目が合ってしまう。 「お前、見えるのか?」  死神は明らかに動揺している。 「あ、ああ」と新伍は肯き、「お前、死神だな」と指摘する。 「ど、どうして。なんで、わかるんだ」  顔色の悪い死神の顔が、さらに蒼白になった。  そして、「頼む。私を見たことは内緒にしてくれ」と泣きそうな顔で頼んでくる。  そこへ長屋から、俸手振(ぼてふ)りの金次(きんじ)が出てきた。 「早いね、新さん」 「お早う。金さん」  新伍が答えると、金次は空の木桶を下げた天秤棒を担ぎ、威勢よく駆け出して行った。 「お前、新さんというのか?」  死神が新伍に尋ねた。 「ああ、そうだ」 「そうか、お前か」  新伍ははっとする。 (もしや……) 「俺? 俺が死ぬのか? 俺を迎えに来たのか?」 「ああ、残念ながら。三日後だ」 (そうだったか……)  新伍は驚いたが、そこは江戸っ子、潔く覚悟を決めた。  幼い頃に二親を亡くし、天涯孤独の身だ。女房も子供もいない。  だから、いつお迎えが来たって悔いはない。  ただ……。 (心配なのは、女将(おかみ)さんとお嬢さんだ)
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