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新伍は、江戸の老舗舟宿『舟幸』の船頭だ。
舟幸は一昨年、親方が卒中で亡くなり、それを契機に何人かの船頭が同業者に引き抜かれて辞めてしまった。
一番に声がかかったのは稼ぎ頭の新伍だったのだが、親方夫婦への恩義で断っていた。今は残された女将と一人娘のお佳代が必死に店を守るのを、船頭として支えていた。
若手で男っぷりもよく気の利いた船頭と評判の新伍は、ご贔屓も多い。
もし、新伍が死んだら、引退を控えた多吉のじっちゃんと、まだ経験の浅い栄作だけになってしまう。
実は数年前、舟を新造した際に親方が高利貸しに騙され借りた金がいつの間にか膨れ上がり、時々証文片手に悪い奴らが店にやって来ていた。
今はなんとか新伍の稼ぎで凌いでいるが、もし新伍がいなくなれば店を人手に渡すか、娘のお佳代が身売りするしか方法はない。
(絶対、それだけは止めねえと死ねねえや)
新伍は思った。
「あと、三日あるんだな」
死神に確認する。
「ああ」
死神が肯き、新伍はこの三日でなんとかしなければと思案した。
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