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「ま、また、おくすり貯めとく! 恥ずかしすぎてまだ言えねぇ!」
「なんでよ! 先生には言ってたよね?! しーかーも! ここには書いてるじゃん!」
あたしはおくすりの中に入っていた〝未羽が好き〟と書かれた紙を開いて渉に向けた。
「わ! マジでやめろ! 読んだら捨てろそんなもん!」
「やだ! 一生あたしの心のおくすりにする! イライラしたらこれ見れば治りそうだし」
「最近ほんとイライラしすぎだけど、なんで?やっぱその腹痛のせいなの?」
「渉のせいに決まってんでしょーがぁ! バカ!」
ずっと、勘違いして意地を張っていたのはあたしの方だった。渉はずっと優しかったのに。
今日だって、あたしがお腹が痛いことに一番に気が付いてくれたのは渉だ。
靴を履き替えて校舎から出る。
素直になれないあたしのことを、見捨てない渉がやっぱり大好きだよ。
だけど、この気持ちはまたもう少したくさん渉のおくすりが貯まったら、伝えようかな。
だって、あたしだって面と向かって「好き」だなんて言うのは恥ずかしいんだよ。
「あたしも渉用のおくすり作る?」
「え?……うーん、いや、いい。だってさ、両想いってことでしょ? さっきから未羽スキップして鼻歌歌ってるし、めっちゃ機嫌いいじゃん。俺には薬は要りません。その代わり、手、繋いでも良い?」
笑顔を向けられて、あたしは固まってしまう。
「……が、学校の、外に出たら、ね」
「あ、それは俺も思った。誰かに見られるの恥ずかしいからね」
ウズウズする右手。隣を歩く渉の左手が数センチのところで待っている。校庭を歩いて校門を抜けたら、あたしのウズウズよりも先に、繋がれた手。イライラなんてどっかに吹き飛んでいった。
渉からのおくすりは恋煩いに効果てきめん。きっと、お互いに想いを伝え合えるようになるまで、そう遠くはないかも、しれない。
─fin♡─
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