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「病人はあたしのほうだっつの! 気づいてるでしょ? 早くよけて!」
「なんだよ、めっちゃ元気じゃねーか!」
「うっさい! どけろ!」
叫びすぎたせいか、お腹に響く。波があるからこの腹痛はひどい。おさまっていたはずの痛みがまたじわじわと押し寄せてくる。
本当にイラつく。早くここからも出ていけ! バカ渉。
苛立ちと悔しさで涙が込み上げて来てしまう。
「は? 泣くほど痛いのかよ。ちゃんと休むんだぞ。俺は部活行ってくるから」
涙を滲ませた顔を見るなり、渉はベッドから降りて「ありがとねー、美香子ちゃーん」と、軽いノリで保健室から出て行った。
渉の抜け出た布団。上靴を脱いでゆっくり枕に頭を預ける。渉の匂いがする。悔しいけど安心してしまうのは、あたしがどうしようもなく、あいつのことが好きだからだ。もうこの想いが届くことはないのかと思うと、胸が苦しくて、痛い。
「新木さん、大丈夫? あら、もう寝ちゃった?」
目を瞑ったまま動かずにいたあたしに、先生はそっと布団を掛け直してくれて、カーテンを閉じた。
ため息を吐き出す。
あたしがあいつのことを好きでも、あいつは、先生のことが好きなんだ。だから用もないし具合いが悪いわけでもないのに、しょっちゅう放課後、保健室に入り浸っている。
イライラするのは、それが大きな原因だ。
あの告白を聞いてから、あたしはあいつに怒ってばっかりな気がする。
だって、小さい頃からずっと「みーちゃん、みーちゃん」って、あたしの後ろをついて来ていたのに、中学に入った頃から声は低くて変になったけど、急に背は伸びるし、もともと可愛い顔をしていたから、大きくなればイケメン間違いないって思っていたあたしの予想通りにめちゃくちゃカッコよくなっちゃうし。
今まで渉のことを「かわいい」って言っていた女子たちがこぞって「かっこいい」って言い出した。そんな女子たちに目もくれない渉が変だなと感じたのは、中三の夏休み明け。
今日みたいにお腹が痛くて保健室を頼って来たあたしは、聞いてしまったんだ。渉が保健の先生に「好きなんです」と告白しているのを。
あの日以来、あたしはもう渉に想いを寄せることは意味がないと、やけになっている。
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