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保健室
渉とは、家も近いし小さい頃からの腐れ縁もあって、登下校はずっと一緒にしている。一番近くにいて、優しい渉が好きだと想いを寄せていたのはあたしだけだったんだ。
そう思ったら、悲しいを通り越して、苛立ちに変わった。
どうして、よりによって先生なのか。大人で色気があって美人で。男子たちが揃って憧れている美香子先生は絶大な人気者だ。渉なんて相手にしないでしょ? そうは思っても、あの返事がどうなったのかは、怖くて聞けずにいる。
そして、あの日から、毎日放課後に保健室へと通うようになった渉の行動が、もしかしたらオッケーだったんじゃないかと信憑性を感じさせるからタチが悪い。
もう、本当にあたしの恋は絶望的で、そのせいもあってか毎回毎回、月に一度お腹がこんなに痛くなるのがひどいのは、絶対にあいつのせいなんだと思うことで、なんとか乗り切ろうとしている。
保健室にはなるべくお世話にはなりたくないし、渉が先生と一緒にいるところも見たくない。だけど、二人にはなるべく一緒にいて欲しくないから、あたしは邪魔をしに来た。
学校にいる間に、渉が先生と一緒にいる時間は、一体どのくらいなんだろうとか、放課後保健室で先生となにしてるんだろうとか、嫌な想像ばかりして、勝手に落ち込んでいる。
「まだ寝てんのかー? もう帰るぞ未羽」
カーテンが開いて蛍光灯の光が眩しい。
すっかり眠ってしまっていたあたしは、覗き込んでくる渉から顔を背けた。
「勝手に帰ったらいいじゃん。別に一緒に帰る約束なんてしてないし」
我ながらなんて可愛くない。そう思っても、口を突いて出て来てしまうから、止められない。
「腹いてぇ奴置いて帰れないだろ。途中で倒れたらどうすんだよ。誰も助けてなんかくれねーぞ」
「……倒れないもん」
「あ、そ」
あたしがいくら反抗しても、いつも必ず待っていてくれる。なんで離れてくれないんだろう。一緒にいればいるほど、あたしは苦しいのに。
「先生、さっきここ紙で切っちゃったんだよね。絆創膏くれない? 微妙に痛い」
「あら、大丈夫? 待ってね」
布団から出てベッドから降りる。上靴を履いていると、カーテンの外で寄り添う渉と先生の姿を見てしまう。やっぱり、あたしには二人が一緒にいるところを見るのは、辛いんだ。
「やっぱり、一人で帰れるから」
「え? ちょ、未羽……」
渉の呼びかけも無視して、教室まで戻った。
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