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教室に入ると、自分の席にあるはずのカバンを探す。
「あれ?」
ない。もしかして、渉がさっき一緒に持って来てくれていたのかな。
またしても、ため息が出てしまう。
ポケットの中でスマホが震えた。
》靴箱のとこで待ってる
「だから、待ってなくて良いのに」
まだ鈍く痛む下腹部を抑えて、あたしは返信しないままスマホを制服のポケットにしまった。
ゆっくり、廊下を進む。
靴箱を通らなければ家には帰れない。今は渉と顔を合わせたくない。今日はイライラが絶好調だから、ひどいことを言いかねない。出来れば、言いたくは、ない。
葛藤する心と戦っていると、「新木さん」と呼ばれた。声の方に視線を向けると、美香子先生がこちらに向かって歩いてきた。
スラリと背が高くてスタイルも良くて、美人な先生だから、男子からモテているのは頷ける。渉だってその一人だ。だけどさ、あたしだって、先生くらいの歳になれば、きっと渉も驚くくらいの美人になっているはずだ! 努力はしたい。するし!
「これ。お腹の痛みが和らぐおくすりよ」
にっこりと笑顔で、先生はおくすりと書かれた白い紙封筒を手渡してきた。
「え……ありがとう、ございます」
「すぐに、用法容量を守って、正しく使ってね。さようなら」
「あ、はい。さようなら」
頭を軽く下げると、先生はコツコツと靴を鳴らして廊下を歩いて行った。
手元に残ったおくすりの袋。
気になって、あたしはその場で袋の中を覗いて見る。中には、小さく折り畳まれた紙がいくつも入っていた。
一つ、取り出してそっと丁寧に開けてみると、〝優しい〟と、一言だけの言葉。
試しに、もう一つ開けてみる。こちらには、〝かわいい〟と書いてある。
「……なに、これ」
まぁ、言われて嫌な気分にはならないけど、これがおくすり?
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