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「おー、おっせーぞ、未羽! って、あれ? また涙目じゃん。お腹いてーのか? 大丈夫か?」
「ねぇ、渉。渉の好きな人って、誰?」
「……え、な、なに。いきなり」
「この前、美香子先生に好きって言ってたじゃん! あたし聞いたんだから!」
「……え!?」
あの時聞いた言葉を、あたしはずっとずっと頭の片隅に置いている。あれは、あたしに向けられた言葉じゃなくて、先生に向けられた言葉だ。だって、あの場にあたしはいなかったんだから。聞いてしまっただけで、保健室の中にいたのは、渉と美香子先生だけだった。
「あ!……あれはっ!」
悔しくて渉のことを睨んだまま黙り込んだあたしに、渉がなにかを思い出したように声をあげた。そして、その顔がじわじわと色付いていく。隠そうと手を口元に当てても、全然隠れてなんかいない。
「ってか、あん時聞いてたのかよ!? マジかーっ、言えよー」
「そんなん知らないよ! バカじゃないの?」
「あー、だよな、まじ、ごめん。ってか、聞いてたのか、そっか、じゃあさ、もう言わなくても大丈夫だよな?」
なに、その反応。
安心したように胸を撫で下ろす渉にイライラが募る。知らないふり、しとけばよかった。やっぱり、渉が好きなのは先生じゃん。
「あたしじゃない人に聞かれてたら大変なことだよ? 噂なんかあっという間に広がるんだからね。渉が、美香子先生と付き合ってるだなんて」
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