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勘違い
「…………は?」
なんだその間の抜けた顔は!
真剣なあたしと違って、渉は豆鉄砲を喰らった鳩みたいな顔をしているから、どうしたってまたイラつく。
「いや、え? なにそれ。面白いね、美香子ちゃんと付き合ってるとか。どこでどうなったらそんな話になるの?」
「……はぁ?! 惚けなくったっていいよ! 先生に好きって言ってたじゃん! 放課後毎日保健室通ってるじゃん! これだけの理由があれば十分でしょ!」
息も絶え絶え、あたしは渉にパンチを繰り出しながら訴える。弱々しいあたしの拳を、大きな手で掴まれて、見上げた渉の顔が近くて胸がキュッとなった。
「なに勘違いしてんだよ。そんなわけないだろ」
ため息を吐き出して、あたしの肩に両手を置いて顔を覗き込んでくる。真っ直ぐに向けられる瞳は、いつものふざけた渉と違って真剣だ。
「じゃあ、これって本当なの? おくすり、全部開けちゃったよ……全然、足りないんだけど」
先生にもらったおくすりの袋を渉の顔の前に突き出すと、驚いたように目が見開いていく。
「……マジか……。美香子ちゃんの言った通りだ」
「……え?」
「美香子ちゃんに相談してたんだよ。どうやったら、気持ち伝えられるのかって。そしたら、その袋に未羽への気持ちを書けるだけ書いて貯めていこうって。いつか未羽がこれを必要になる日が来たら、渡してあげるからって。ってかさ、未羽が聞いたのは、先生相手に告白の練習って言うか……してた時だと、思うんだけど……マジで聞いてたの?」
ガクッと頭を下げて、力無くうなだれた渉の姿にあたしは唖然としてしまう。
「……な、なにそれぇ。そんなことしてるなんて知らないし! あたしずっと渉は先生のことが好きなんだって思ってたんだからー!」
「は?! だからなんでそーなるんだよ! 確かに美香子ちゃんは美人だし人気あるけど、俺はずっとお前しか……」
勢いよく話していた渉は、あたしと目が合うと急に黙り込んだ。
「……お前、しか?」
その後の言葉って、もしかして。
どんなおくすりよりも、きっと別格に効き目がある言葉な気がする。
目の前の渉の顔は見たことないくらいに真っ赤になっていく。
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