恋煩い

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恋煩い

 手をかけようとした保健室のドア。  今は授業中だから辺りは誰もいない。廊下の窓から吹き抜ける心地よい爽やかな秋の始まりの風と一緒に、聞こえてきた声。 「好きなんです」  この声に、あたしはハッキリと聞き覚えがあった。 ─────  歴史の授業中。おじいちゃん先生はよく聞き取れない声でボソボソと喋っては黒板に特徴のある整った字をつらつらと並べていく。  今朝は曇り。九月も半ばだというのにまだ残暑の残る気温と連日の暑さで、体がだるくて頭も痛い。おまけに今朝から始まった生理のせいでお腹も鈍い痛みを起こす。  そんなあたしのポケットの中でスマホが震えた。 》顔色悪いぞ、ちゃんと休めよ  教室を見渡すと、一番後ろの席の戸部(とべ)(わたる)と目が合う。ニッと笑いかけてくるから、あたしはため息を吐き出してなんの反応もせずに前に向き直った。  放課後、部活を休んであたしは保健室へ向かう。家まで持ちそうにないから、少しだけ休ませてもらってから帰ろうと思った。 「せんせー、お腹痛いです」 「あら、新木(あらき)さん大丈夫?」 「たぶん月のものなんで寝てれば大丈夫。ベッド空いてますか?」 「今ね、使用中で」  慌てて椅子から立ち上がった先生を無視して、あたしは閉ざされたカーテンを思いっきり開けた。 「またサボってんでしょ?! 渉!」 「うおっ! てめ、勝手に開けんじゃねぇよ。病人が寝てるかもしれねーだろ」  思っていた通りに、ベッドに横になってなにやら紙とペンを持った渉の姿がそこにあるから、笑えない。  帰ろうと思って教室を見渡した時に、いつものように渉の机だけがもぬけの殻だったのだ。  教室にいないとなれば、どこにいるかって言えばここしかない。  ここ数日、渉は放課後になると保健室にきている。そして、あたしはその理由を知っている。つい先日、聞いてしまったんだ。渉が先生に告白しているのを。  それから、ずっと、あたしはイライラしている。
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