ヘリポートの殺人

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ヘリポートの殺人

          Ⅰ  人生において、難問にぶち当たる経験は誰にでもある。  それは微分積分の問題だったり、何を考えているかわからない恋人の心情だったりーー人によってそれぞれだ。  かくいう警視庁捜査一課所属の警部——櫛灘一姫はといえば、現在、微分積分や恋人の心情以上の難問に直面していた。 「何がどうなったら、こんなわけのわからない場所で殺人が起きるのよ……」  呟く彼女は、巨大な『H』の文字の中心で息絶える男を前にして、大きくため息をついた。  そのわけのわからない場所とは、三十四階の高さを誇るビルの屋上に位置する、ヘリポートの上だった。  ビルは『バイマイトフーズビル』という。  その名の通り、株式会社バイマイトフーズというスポーツ食品会社の部署が全フロアを占めている。社員達からは『フーズビル』と呼ばれているそうだ。  そのフーズビルの屋上ヘリポートで今朝、殺人事件が起こった。  殺されたのは株式会社バイマイトフーズの親会社——株式会社バイマイトの代表取締役、鎌ヶ谷大樹だった。  普段冷静沈着な一姫も、警視庁本舎の自席でコーヒー片手に彼の名前を聞いた時は、驚愕のあまり思わずコーヒーを吹き出してしまった。  鎌ヶ谷大樹といえば、今をときめく敏腕経営者にして、株式会社バイマイトが成功を納めるきっかけとなった大ヒットプロテインバー『マックスチャージ』の開発者だ。
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