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その彼が起こした株式会社バイマイトは、設立僅か七年の駆け出し企業だった。五年前に一度倒産の危機を迎えたものの、天才鎌ケ谷の手によって奇跡的復活を果たし、現在では上場企業に名を連ねるまでになっていた。
というように、鎌ケ谷は最早伝説的ともいえる男だった。そんな栄華を極めた男が、傘下のオフィスビル屋上で首の骨を折られて殺害されている姿が発見されたのが、本日十時二十分のこと。発見者は殺された鎌ヶ谷の秘書だという。
「警部、先生が到着されました」
部下の刑事に声をかけられ振り返ると、白髪頭に牛乳瓶の蓋みたいな眼鏡をかけた壮年と目が合った。監察医だった。
白髪の壮年は一姫たちが見守る中、鎌ヶ谷の亡骸を矯めつ眇めつ観察し始めた。一姫もあらためて、仏に目を向けた。
テレビや雑誌でも何度か目にしたことのあるその男は、悶絶したような表情で息絶えているという一点を除けば、塩顔の美男子だった。年齢は三十代と伺っている。首が、不自然な方向に曲がっていた。死因はこれとみて間違いないだろう。纏っているのは群青色の派手なスーツで、深紅のネクタイがアクセントとなって華やかな印象を持たせていた。不可解なのはそのポーズだった。仰向けのまま全身をぴんと伸ばし、左腕を挙手していた。
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