ヘリポートの殺人

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 ただ殺害されただけで、こんな奇妙なポーズになるわけがない。つまり、犯人が死体をあえてこうせざる負えなかった理由があるに違いない——一姫がそんな考察を巡らせている内に、監察医が大儀そうに「どっこいしょ」と腰を上げた。 「死後一時間、ってとこですかな。死因は見ての通り、頚椎の骨折ですわ。防御創はなし。犯人はよほどの怪力でしょうな」 「怪力……どうして?」  ビル風にあおられる髪を抑えながら、一姫は訊ねた。 「そりゃ人間の首を折るなんざ、並の人間じゃできませんからね。頸椎ってのは大体二百キログラムの重さまでなら耐えられるんです。二百キロ相当の膂力なんて、よほど鍛えてなきゃ咄嗟に出せんでしょう」 「なるほど」  凄まじい怪力の持ち主——これは犯人の特定に大いに役立つに違いない。 「それと、仏さんの左手首に強い圧迫痕がありますな」  白髪を掻きながら、監察医は付け加える。 「おそらく左手首を握らなくちゃいけない理由があったんでしょう。溢血の範囲からみて、相手さんは片手で握ったんじゃないかなあ」  監察医が「ほれ見てください」と死体の袖をめくり、左手首を露出させる。確かに、溢血があった。範囲も狭く、仮に両手で握ったのだとしたら不自然ということになるだろう。  何より重要なのは、左手首——つまり、挙手している方の手だということだ。
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