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木倉、弓塚、剣山、早瀬、武藤——五人の内誰一人として、確固たるアリバイを持っていなかったのである。一応弓塚と木倉は本社ビルに移動したという事実があるので、犯行時間に猶予があまりないことになる。とはいえ、二人とも会議室を早々に退室していることから、犯行が不可能であったわけではない。
「まさか全員にアリバイがないなんて……どうします、警部」
顔を困惑で包んだ部下が一姫に耳打ちする。
「とりあえず、このまま聴取は続けるわ」
一姫は既に頭を切り替えていた。アリバイの有無で犯人が絞り込めればそれに越したことはないが、うまくいかなかったのなら仕方ない。それに、この五人にはまだ聴きたいことが山ほどある。
「木倉さん、会議室で鎌ヶ谷さんが電話を受けた際、様子がおかしいところはありましたか?」
応接室での剣山の話では、明らかに鎌ケ谷の様子がおかしかったということだった。これが剣山の主観でないことを確かめる必要がある。
「おかしいといえば……うん、そうでした。でも、鎌ヶ谷は普段から破天荒な奴だったので、正直違和感はなかったかな」
「そう? あたしにはどこか鬼気迫るようにみえたけどな。大体、あの鎌ヶ谷が新人くんのプレゼンをすっぽかすなんて、珍しいでしょ」
「そうですよ木倉さん、鎌ヶ谷さん、『新人のプレゼンが楽しみだ』ってあんなに意気込んでたじゃないですか」
「確かにそうだが……」
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