ヘリポートの殺人

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 弓塚と剣山に押されて木倉は「いわれてみれば——」と神妙な面持ちで腕を組み、天井を見上げた。 「早瀬さんはどうでしょう。違和感はありましたか?」 「え?」突然話の矛先を向けられた早瀬は目を瞬くも、「わたしも弓塚さんと同じです。電話先の女性の声……でしょうか数十秒話しただけで突然社長が恐い顔になったのはおぼえています」震える声で応えた。 「僕も同じです。先週、『君のプレゼン楽しみにしてる』って声をかけてくれたのに、あの電話がかかってきたとたんいつもの社長じゃなくなったような気がしました」  早瀬に便乗するように、新人社員こと武藤も閉じていた口を開いた。 「武藤さん、ご自分からありがとうございます。と、いうことですが木倉さん——どうでしょう」  一姫が問い詰めると、木倉は動揺することもなく、彫刻のようなアルカイックスマイルを作り、 「そうですね。あくまで僕の主観ですから、皆がそう感じたなら、そうだったのかもしれませんと、おもねる姿勢をとった。  これで鎌ケ谷の様子の異常は、ほぼ満場一致で肯定された。剣山の主観ではなかったことが証明されたことにもなる。何より、一姫の推理の拠り所である、電話の内容を聞いていた人物が犯人である、という考えの裏付けにもなる。  好調だ。口角を上げつつ、一姫は次に弓塚へ照準を向けた。
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