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「まったく、ありがたい話だね。社員たちがこんなにあいつのことをわかってくれていたなんて」
どこか悲しげに呟き、
「私も、鎌ケ谷が素行不良で恨みを買ったとは考えられないな。変な話だが、私もいまだにあいつに𠮟られることはあったけど、それで怒りを感じたことはなかったよ。あいつの正論には、どこか温かい人情が隠れているんだ。皆、それはわかっていたんじゃないかな」
思い出に耽るように両目を閉じて語る木倉に、バイマイト社員たちは頷き返した。
「木倉さん、俺もそう思いますよ。鎌ケ谷さんは確かに癖のある人だったけど、いうことはいつだって正しかったし、根っこは優しかった!」
目を潤ませ、暑苦しく同意する剣山。そんな彼に木倉は、「妻にも見習ってほしいくらいにね」と冗談交じりに返した。
「なに、のろけ話? やだねえ、妻子持ちは。あたしら独身貴族の前で自慢はやめてほしいわ」
やれやれとばかりに弓塚が肩を竦める。これで気が緩んでしまったのか、軽く笑い声が上がった。
一姫の作戦で緊張していた会議室の空気は、いつの間にかコミカルに弛緩していた。
「ちっ」一姫は誰にも聞こえないくらいの音量で舌打ちした。
この時点で、彼女の疑いは確信に変わっていた。この五人の中に、確かに犯人はいる——刑事としての勘がそう告げているのだ。
だが、犯人を決定づける事ができない。一人に絞り込むことがどうしてもできないのだ。
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