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それから、五人へ幾つか質問をぶつけた警部だったが、成果を得ることはできなかった。
Ⅴ
一週間後。
東京都S区の高級住宅街を、一姫はヒールを鳴らして歩いていた。
服装は厳格な現役警部のイメージとはかけ離れた、スキニーデニムに純白のブラウスというラフなもの。右肩にはやや大きめな、ブラックのエナメルバッグを下げている。つまりは完全なオフモードだった。
そんな彼女が向かっているのは、勿論事件現場などではなかった、
都内特有の狭苦しい細道を抜けて、意図的に自然が残された区画に入った。ここまで来れば、目的地はすぐそこだ。
——休みをもらったからといって、有無を云わず実家に帰省とは、我ながらつまらない人間だ。
重い足取りを進めながら、一姫は苦笑する。
もとはといえば昨日、上司にあんなことを云われなければ、彼女はその身をスーツに包み、現場でいつものように指揮を執っているはずだったのだ。それが——
「櫛灘くん、これはどういうことかな」
上司に呼び出され、パソコンの画面を見せつけられた。そこにはしっかりと、一姫のその日の出勤が、連続三十日目であるという証拠が映し出されていた。
「ダメだよお、いくら忙しいからってこんな働き方しちゃあ。というわけで、君、明日から三日間休みだから、よろしく」
おぼろげに思い出して、ため息をついた。
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