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年老いたお婆さんが川に洗濯に行った。わしは昔話の流れから、これは桃太郎の話だと勘づいた。
わしは思い立った。そうだ、山に行こう。勿論、芝刈りをするためだ。これでわしが帰る頃には川上からどんぶらことやってきた桃をお婆さんが持ち帰っているだろう。
そして桃を切ると中から桃太郎が奇跡的に斬られずに出てきて、鬼ヶ島を奇襲して鬼の蓄えた財産を強奪してくる。そしてわしらは大富豪の仲間入りを果たす、そういう展開になると思った。
わしが山で汗水垂らしたふりをして適当に芝刈りをして家に帰るとお婆さんが大きな桃を抱えていた。よしよし、これでわしらは大金持ち確定だ。
わしが密かにやっていたギャンブルのケチな借金もこれで返せる。金のなる木の桃太郎を育てようと思うと口元から涎が垂れそうだった。
お婆さんが大きな包丁を持ってきて桃に切り掛かった。横で見ていたわしはあんぐりと口を開けた。お婆さんが奇声を上げて鬼気迫る剣幕で桃を斬った。
「とりゃー! そいやー!」
「お婆さん、桃太郎が死んでしまう!」
わしが心配していた通り、中から肩に血を流した桃太郎と思しき者が出てきた。しかしとても桃太郎という可愛らしい名前がつくような人物ではなかった。
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