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「さっき電話で話したけど、日吉、泣いてた。ばっさり、振られた……って。聞いたところじゃ、斉藤もダメだったみたいだし」
と、言うと陽毬はまるで頭から水を浴びせられたように、目を見開いた。
「私は、たとえ一時的でも北田先輩に好きって言われたい!」
「後悔する。きっと」
断言すると、姉は視線を彷徨わせた。
「……迷うわ」
「僕はもらった薬をまだ使ってない。好きな子がいないから。人の気持ちを薬でどうこうしようなんてやっぱり良くないし。捨てようかなって思ってた」
そう言うと、陽毬が、
「え!」
と、声を上げる。
「姉ちゃんがどうしてもっていうなら、あげるけど」
「欲しい。あ、でもやっぱり……」
陽毬の迷い切った憂い顔に、はじめて姉を自分の思うように操っている気がして、不謹慎だけど伊織はにやけそうになってしまった。
もしかして、これもこの薬の悪い効果かもしれない。
「いらないなら捨てるよ、こんな薬」
「あー!」
伊織は姉の目を、試すようにじっと見た。
「やっぱり頂戴!」
唇を引き結んだ陽毬が、伊織に向かって手のひらを差し出す。
「後悔しても知らないよ?」
陽毬が頷いた。
*
あの後すぐ、陽毬は北田部長と付き合い始めた。それから三ヶ月。
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