夏の終わりに絶望していた私達は

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お盆休みが終わって、今日から出社。 皆くたびれた顔で満員電車に乗り込んでいく、私もその隙間に体を挟ませようと足を動かして、止まった。 動けなかった。 休み前の社内の光景が浮かぶ。鳴り響く電話、ノルマ達成率が書かれたホワイトボード、でかでかと飾ってある社訓。 それ前も説明したよね、ときつく言われるのが怖くて、分からなくても聞きづらくて休み明けになんとかしようと思って……今がその休み明け。 行きたくない その電車を見送ると、もうこのまま行っても10分遅刻してしまう時間になった。 行きたくない 無断欠勤する気?明日からどうするの?行かなきゃ、でもいまからでも遅刻だよ、とりあえず連絡しようよ、誰が出るかな?係長が出たら社会人としてなってないて説教はじまるよね、それか冷めた様子でもういいよ、いつ来ても来なくても変わらないからて言われるかも。 私は頭を抱え込み、急行がくるまでのその時間 黄色い線のその先へ足を踏み出す。 叱られたくない、問題を先延ばしにしたい なにも考えたくない。ただそれだけの理由でー…… 「ねー、お姉さんもしかして自殺しようとしてる?」 「えっ!!」 声が聞こえて、あたりを見回して、そして目線を下げた。ランドセルを背負った小学生が居た。 最近の子ってこうなのだろうか、金髪で、肌が白い。 でも小学生らしくてすこし安心するような、ランドセルにダサい竜のキーホルダーがぶら下がっている。 「俺いまから終点目指してるから〜自殺するなら別の場所でお願い〜」  「…………しないよ、それじゃ……」 「聞いてあげようか?自殺する理由 でもあれだろ?会社つらいーとかだろ?わかるよ 母さんも毎日そういいながら出勤してる」 「……あなたもいずれそうなるんだよ」 「ふーん?元気なやつも多いけどね ブラック入ったのがいけないんじゃないの」 なんか、腹立つ子供だ。 結局、急行がきて……私は轢かれることもなく、なんとなく流れで二人で急行に乗り込んだ。 「簡単にいうけどね、べつに好きではいったわけじゃないし、簡単に辞めることもできないし……」 「辞められない辞められないて、よく聞くけど、それで死ぬんだったら馬鹿らしくね 死ぬのって最終手段じゃん。その前にできることでしょ、辞めることなんて そんなに替えがきかない人材でもないんだろ?あんた」 「もーうるさいな、そりゃよくよく考えれば死ぬくらいなら辞めるよ でも死のうとしたのは……べつに計画して、じゃなくて……なんとなく……逃げたくて 思いつきで……」 小学生になに人生相談をしているのだろう。 数駅揺られていると、会社の電話番号がスマホの画面で光っていた かかってきた。そりゃ、無断で一時間遅刻している、連絡くるよなあ。 出なきゃ、出たくない 怒られる、助けて。 「踏ん切りがつかないなー」 その小学生は、私の、ロックをはずした状態のスマホをガッと奪うと、まさかの電話に出た。 「すみません、今日で辞めますー」 「っはぁ?!ちょ、なにすんのこのクソガキ……」 鼻をつまんで私の声に似せたつもりなのか そうやってもう電話は切られてしまった。 「ちょっと!!!」 乗客が見てくる。私は恥ずかしくなって、その子をつれて一旦見知らぬ駅に降りた。 「なんてことを!!」 「辞めるいいきっかけじゃん」 「…………あのねえ、いきなり辞めることなんて……こういうのは数ヶ月前に前もってさあ……」 「死ぬほどその日に出勤できない場合は退職代行サービスとかあるよ それつかえば。 それに辞めてすぐ死ぬわけじゃないっしょ なんか支援とか出るでしょそれにまだ若いじゃん大丈夫大丈夫 一旦バイトでもすれば?」 「う、うう〜!」 なんでこんな見知らぬガキに人生の大事なところを左右されなきゃいけないのか。 私はふらつきを感じ、後ろに数歩下がる。 なんか歩き辛いとおもったら、ヒールが折れていた。 そうだ、お盆休み前もヒールが折れてることは気づいていた。休み期間に直そうと思っていた。 なのに直さなかった休みの私は、もうこれを履いて会社にいく行為をする気がなかったのだろうか。どこか本能的なところで。 声がかからなければ、私は死んでいた。 開き直ってもいいのかもしれない。 「……まあ、そうだね、辞めるよ ありがとう」 強引すぎるけど誰かに導いてほしかったのかもしれない。相手が子供とは思わなかったけど。 「そんじゃ、俺終点目指すから、お元気で〜」 私がもう死にそうにないとわかったのか、または興味が失せたのか、その子はさっさと電車に乗り込んでしまった。 「……ふう」 出会いも別れもなんか急だったなあ。 なんか疲れた。 とりあえず辞めるのは確定で、なんか失業保険とか頼ろう……自己都合退職になるだろうから失業手当いつ受けれるかわからないけど……。 がむしゃらに働いてきたおかげで、貯金だけはあるし。 知らない駅をすこし探索してみようと思った。 辞めると覚悟した途端、体が軽くなって空気が美味しく感じて、はじめて入るパン屋の菓子パンは小麦色、ふっくらととても美味しそうで…… 「あ、ここイートインスペースある」 お茶していこう、なんだか疲れたから。 いままでほんと、お疲れ様、自分。 そんなこんなで落ち着いたはずの、数週間後、私はニュースをみていて驚く。 行方不明の男の子を探していますというニュース だ。その子は間違いなく私の自殺を止めたその子だった。 「っ……!」 家から飛び出す。 お盆休みの終わりに絶望していたのは私だけではない、夏休みの終わりにあの子もまた絶望していたのだ。 おそらく、学校に行きたくないとか そんな理由で。 私はとりあえず彼が目指すと言っていたその急行の終点まで来てみた。 しばらくたってるからもう移動してるか、わからないけど、カラオケとかネカフェとか駅チカを探してみる。 でも、そもそも小学生てそういうとこ宿泊利用できるのかな?親御さんは?て聞かれちゃいそう。 私は探し回って……建築予定、のまま予定が流れたのか建築予定の看板がささった、草木が生え散らかし誰も管理していない空き地をのぞいてみた。 なにやらその茂みに隠れて小さいテントのようなものが。 「……居た、よかった。 ホームレスとかだったらどうしようかと」 「……ん?だれかと思ったら社畜自殺する系お姉さんだ……」 「その呼び方やめてくれる?あなたも、家出なんて……こんなとこ、すぐバレるよ それにお金もあんまもってないでしょ、危ない目にあうまえに、はやく帰ろ」 「そうだよなー、どこにもいけないんだ、俺 死ぬ気はないけど現実問題、逃げきれもしないんだよねー」 寂しい目、むりやり引っ張って警察につれてってもいいけど、虐待親だったらどうしよう?そのあとに虐待死のニュースをみることになったら、私は申し訳なくてそれこそまた死ぬかもしれない。 「えっと……事情聞いてもいい?」 「えーいやだ」 「なによ、あんたのほうはすごい聞いてきて…」 「あんたの方の理由はいいじゃん 社畜とはいえ仕事頑張ったんだろ、格好いいじゃん 俺はだめ。ダサいし」 「…………家出とか自殺とか、そこまで追い込められたなら、ダサいとかないと思うよ……」 「……じゃあ言うけど、学校のいじめ。ありきたりだろ?ちなみに両親は仕事で忙しいだけで、優しいよ」 「……いじめはダサくないよしてくるほうが未熟なんだよ。 本当に、家に帰るのには問題がないんだね?いい両親なんだね? だったら行こう、学校なんて変えてもらおう 行かなくていいよ」 「……嫌だよ。不登校とか転校とか迷惑かかるじゃん」 「じゃあいまの家出は迷惑じゃないの?ニュースになってるよ?この上なく迷惑になってるよ?」 「うっ、ま、まじかあ」 私はその子のバッグを勝手にあさり、おそらく追跡されないために電源を消していたのだろうスマホを勝手につけた。 ロックはかかっておらず、親からたくさんの着信がきていた。 「もしもし、いま丸々駅であなたの息子さんを発見しました 来れますか?今から警察につれてくつもりです」 「ああーー!!!ちょっなに勝手に」 慌てた様子で叫ぶ、この子の母の声は 多分、まともな人だ。 「仕返しよ仕返し。仕事で忙しいからって遠慮しないで、仕事なんかよりあなたのことが大事に決まってるじゃない」 「……そうかもしれないけど、だから嫌だったんだ迷惑かけるのが……」 「…………子供のうちは誰でも迷惑かけるよ 大丈夫。私もあなたも、とりあえず生きてるんだから」 テントの暗闇の中、抱きしめた。 小さな体、確かな鼓動。 「そうだ、名前くらい聞いておこうかな あなたは?」 「……右崎竜。あんたは?」 「……立花ミオ」  このとき、名前を聞いておいて本当によかったと思った。 十数年後、私の会社に新卒で入ってきた男の子は黒髪であまりにも真面目そうで、名前くらいでしか特定できなかったから。 夏の終わり、ただその時だけに人生が交差した 出会いでは終わらず。 「へー。いまはここの係長なんだ ブラック?ここ」 「ブラックにしないために頑張る立場よいまは! あと敬語!」 私達の人生はまた、交わった。 end
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