12月16日の夏

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『今年もついに、夏の終わりが訪れました!』  ニュースキャスターが、意気揚々と歓喜を読む。日傘の下、汗と共にはしゃぐ姿は、僕の安堵を引っ張り出した。 「今年も辛い夏だったなぁ……」  実感できるよう、敢えて声にする。  更に実感すべく、冷房の温度を二度下げてみた。だが、熱気が素早く部屋に染みてくる。このままでは侵略されかねないと、すぐ温度を戻した。  それでも、人間が外で笑えることこそが、秋の訪れを証明する。もう少ししたら、僕も広い世界を謳歌しよう。    期待への肯定か、スマートフォンが鳴った。少なくなった、友からのメッセージだった。 “夏終了宣言やっと出たな。今年も駄目かと思ったわ。で、パーティの買い物どうする?”  うんうんと一人頷きながら、“外行く”とだけ返信する。すぐに“いつ行く?”と返ってきた。   『今年の死者は、昨年を上回る――』  コーナーを変えていた番組が、夏の総括を報じている。桁を並べる数字を見て、痛みが小さくぶり返した。 “23日でいいんじゃない? ちょうど一週間後” “いいね。了解ー。生き長らえた祝いも兼ねて盛大にやろー”  やり取りが括られたところで、スケジュール登録をする。12月23日の欄に、パーティの買い出しと記入した。  続く24日にはイブ、25日にはクリスマスと、標準設定された文字が並んでいる。  そうだ。今年も生き長らえた命だ。楽しまなければ勿体ない。それに、はなむけできない。  いつかの夏に殺された祖父や母、妹の分も、全力で楽しまなきゃ。 『最高気温は55度を観測し――』 『大雨の被害も各地で――』  今年も、長く辛い夏が終わる。四ヶ月後には、再びやってくるけれど。 「来年、生きてっかも分かんないしなー……」    大勢の人間を殺した、長く辛い夏が終わる。
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