永き眠りからの目覚め

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 小学生の頃、私は脳に病気を患った。体の筋肉が弱まり、生活に支障をきたすレベルだった。医者曰く、死亡する可能性は小さいとのことだった。しかし、完治することもないため生きている間は車椅子での生活が必須になるらしい。  医者からの話を聞いた時、お母さんは泣いていた。お父さんは泣くお母さんの背中をさすりながら険しい表情を浮かべていた。まだ幼かった私は二人が悲しむ理由がわからなかった。死ぬわけではないのだから良いと思っていた。  しかし、車椅子での生活を送り始めて3年が経ち、両親が泣いていた意味が分かってきた。みんなとは違う生活。みんなにはできて、私にはできないことがたくさんあった。制限の中で頑張ろうと思ったけど、外で元気に遊んでいる子どもたちを見て、どうしても自分と比べてしまった。  私だけどうしてこんな体になってしまったんだろう。  ふと脳裏によぎる思い。目尻からこぼれ落ちそうになる涙を必死に隠して、毎日を過ごしていた。私が悲しい気持ちを抱いてしまえば、自分の時間を割いてまで私の介護をしてくれる両親に申し訳ないと思ったのだ。  でも、そんな私の思いは両親には筒抜けだった。  ある日、お父さんとお母さんは私にとある資料を差し出した。それが『冷凍睡眠(コールドスリープ)』。難病を患った人に対して、治療方法が確立されるまで冷凍睡眠をさせるというものだ。  すでに諸外国で実施している国もあるらしく、来年からは私の国でも実施される予定とのことだった。お父さんとお母さんは二人で話し合い、私に冷凍睡眠をさせるのはどうかと考えたらしい。  来年には中学を卒業する。義務教育が終わり、社会と向き合い始める時期が始まる。その時期を障害を抱えたまま過ごすよりは、完治してから過ごすのが良いのではないかと両親は考えたらしい。  彼らの気持ちがそうなのかは定かではない。もしかすると、私の介護に辛さを感じての提案かもしれない。卑屈な考えをするようになった私はそうも捉えてしまった。  私は両親の提案を承諾した。  どちらの考えだったとしても、冷凍睡眠することが正解なのだ。  元気な姿になって、再び両親に会おう。私はそう考え、明るい未来に思いを馳せた。  でも、それは間違いだった。  病気の治療方法が確立された時にはすでに両親はもうこの世にはいなかった。
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